汚れた手は洗わないと大変
今日のブログのタイトルは、新型コロナのことじゃないからねwww
ボクが小学生のころ、塾に通っているような友人はいなかった。だから放課後になると、暗くなるまで外で遊んでいた。川に入ったり、借り入れが終わった田んぼで野球をしたりと、とにかく泥まみれになって遊んだ。
だからどうしても手が汚れる。だけど手を洗う場所がなければ、つい着ている服で拭いてしまうことがある。そんなことになれば、綺麗になるどころか手についた汚れが広がるだけ。すぐに手を洗えば簡単に終わったことが、その場で取り繕ったことでかえって大変なことになってしまう。
こんな心境ばかりの短編を集めた小説を読んだ。だけどその内容は泥で手が汚れたようなレベルのことじゃない。だから感情移入して読んでいると、二度と抜け出せない深い沼にはまり込んだような気分になってしまう。なんて恐ろしい小説なんだろう。
2021年 読書#54
『汚れた手をそこで拭かない』芦沢央 著という本。直木賞候補となったことでチョイスした作品。読み終わったときに著者は男性だと思い込んでいたけれど、調べてみて女性だったのに驚いた。なぜなら作品のほとんどが、汚れを拭き損なった男性の心理を描いたものだったから。
『ただ、運が悪かっただけ』
『埋め合わせ』
『忘却』
『お蔵入り』
『ミモザ』
という5つの短編が収録されている。
他人事として客観視できない内容ばかり。悪意がなくてうっかりしたことで小さな秘密を作り、それを隠そうとしているうちに、やがてそれが雪だるま式に大きくなっていくという恐怖が描かれている。ネタバレにならない程度に少しだけ紹介しよう。
アパートの隣の部屋の郵便が誤配達されていた。それは電気料金の督促状で、支払いがなければ電気を止めるというもの。うっかり郵便を開けてしまった男性は、隣人の男性と仲良くしている妻にその郵便を託す。だけど妻は認知症の症状があり、郵便を渡すことを失念していた。やがてとなりの男性は、エアコンが停止したままの部屋で熱中症になって死亡する。
夏休みに日直担当だった男性の小学校教師。うっかりしてプールの水を流してしまう。あわてて水を溜めなおしたけれど、水道代でその事実がバレてしまう。他の学校のケースでは謝罪だけでなく、その水道代を教師が弁済していた。焦った男性教師は必死になってその事実を誤魔化そうとする。ところが同僚の教師にバレて、最悪なことになってしまう。
若手の映画監督が、素晴らしい映画を完成させた。有名俳優が参加してくれたことで、スポンサーも注目する作品となった。ところが主演俳優のひとりに麻薬疑惑が起きる。もし警察に逮捕されたら、せっかくの映画がお蔵入りになってしまう。監督がプロデューサーたちと一緒に俳優を詰問しているとき、激昂したあまりその俳優をホテルのバルコニーから突き落として死なせてしまう。どうにか自殺ということで警察に届けて映画の公開が近づいたとき、想定外のことが起きてしまう。
といような物語ばかり。読み終えてスッキリした気持ちになれないけれど、なんともいえない落ち着かない感情が残る作品たちだった。それはそれで、優れた作品の証明だと思う。
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