一つでいい、高みを極めたい
「あんたは先を見切ってしまうクセがある」
この言葉は、20代の最後に学習塾の営業をしているときに上司の課長からいわれたもの。この言葉にボクの人生が集約されている。
課長が口にした「見切ってしまう」とは、自分の現在の力量から達するであろう未来を的確に判断できる、ということ。こう書けばいいように見えるけれど、ボクの場合はそうでもない。なぜなら「見切ってしまう」ことで、その世界から離脱してしまうから。ボクの人生はこのくり返しだといってまちがいない。
もう少し具体的に書いてみよう。ボクが経験してきた子供時代のスポーツを例にするとわかりやすい。小学校3年生のときに少年野球のチームに入った。そんなに運動神経が鈍い方じゃないから、そこそこやれた。だけどどうしてもレギュラーになれない。背番号の12が示すとおりベストの9人に入れない。
そのとき同時に剣道を習っていて、剣道に専念したいという理由で野球をやめた。もちろんそれは本音ではなく、野球に関する自分の実力を「見切った」から。現状から高みに達するには、かなりしんどい努力が必要になる。それを避けたということ。
剣道は小学校6年生になっても続けていた。道場ではそこそこの実力だった。でも初めての昇段試験で落ちてしまった。中学生になったとき剣道部に入るかどうか迷った末、なんと水泳部に入ってしまった。まだ当時は水泳同好会だったので、気楽な気がしたから。つまりそれを理由に剣道をやめた。同じく昇段に関する自分の実力を「見切って」しまったから。
自分でいうのもなんだけれど、ボクは要領がいい。初めてのスポーツでも仕事でも、ある程度の時間が経過すればその集団で頭角を表す自信がある。水泳に関してもそうで、1年生の夏の大会から先輩を差し置いて選手に選抜された。そのまま勝ち続け、京都市内では敵なしの状態だった。
公立中学としては異例のこととして、ボクの中学校の水泳部は新聞にも記事となったほど。3年生のときにボクは水泳部のキャプテンとして、京都市内では連勝続き。近畿大会でも上位に食い込み、ボク個人としても全国ランキングに名前を連ね、京都新聞が主催するジュニアスポーツ賞も受賞している。
当然ながら高校に行っても水泳を続けると誰もが思っただろう。だけどボクは「見切って」いた。なぜなら自分の実力が頭打ちだと知っていたから。当時、100メートル自由形の中学生男子で1分を切るのが全国区になるステイタスだった。だけどボクはどうしても1分が切れない。
そのためにはどれだけの練習が必要なのかも「見切って」いた。中学校3年生の秋には、京都の高校で水泳のトップである私立高校のコーチから誘いも受けた。「うちの学校に入れば1分を切らせるし、全国のトップで競わせる」と。だけどボクは断った。
これ以上の高みに達するためには、どうすればいいかわかっていたから。その辛さも手にとるように見えた。だから避けた。ちょうど不良仲間と遊ぶようになったので、それを理由にしてバイクにのめり込んだ。そうして次々と新しい興味の対象を見つけることで、何かを高みまで極めることを避けてきた人生だった。
それはその後の職歴にも影響している。ボクに転職が多いのは、その仕事を「見切って」しまうから。どの職場にいても、それなりの立場を築いている。だけどそれ以上の高みを見た場合、そこに到達する苦労を背負う気になれなずに逃げてきた。
でも最近はそんな自分を「見切って」しまったwww
もう残りの人生は限られている。最後に一つでいいから、高みを極めたい。本気でそう考えている。そしてそのための苦労を受け入れていこうと。
それは小説を書くこと。10年前に初めての本が出版されたのは、意図した結果ではない。ブログをひたすら書いていて、それをみた出版社の編集長さんが声をかけてくださった結果だった。
それ以降小説の世界に突入したけれど、ようやく最低限の要件を満たす作品が書けるようになってきた。出版社が主催する文学賞等で選考に残るようなことも増えてきた。だけど以前ならこの段階で「見切って」いたと思う。
なぜならこれ以上に高みに達するために、どんなことが必要なのか「見切って」いるから。何度も失敗をくり返して悔しい想いをしながら、自分に足りないものを痛感してきた。そしてそれを埋めるためには、かなりしんどいことも「見切って」いる。
だけどここで逃げたら、結局ボクの人生は逃げ続けたという結果しか残らない。最後は討ち死にしてもいいから、逃げずに立ち向かったということだけは記憶に残しておきたい。それくらいの手土産を持ってあの世に戻りたいからね。
だからもう逃げない。とりあえず最低でも前のめりに倒れるだけの気概を持って日々を生きている。
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