成功物語に葛藤は欠かせない
サクセスストーリーは主人公に感情移入することで、最高の高揚感を擬似体験することができる。ただし絶対的に欠かせないものがある。
それは主人公の強い『葛藤』。
何も障害なく成功する物語なんて最悪。失敗が続いたり、葛藤があることで、成功したときの快感が何倍にもなって感じられる。そんな葛藤に裏打ちされた成功体験を楽しめる映画を観た。
2021年 映画#106
『ボリショイ・バレエ 2人のスワン』(原題:Bolshoy)という2017年のロシア映画。
先日見た旅番組で、ロシアのボリショイ劇場が紹介されていた。だけど劇場の外観だけで、実際のバレエが見られなかった。なんとなく欲求不満を感じていたので、この映画に飛びついてしまった。本家本元のロシア映画だからまちがいないだろう。その予想は正解で、とても素晴らしい作品だった。
二人の女性が対照的に描かれている。主人公はユリア。彼女は貧しい地方の出身。少女時代から何度も警察に捕まるような生活をしていたが、元有名ダンサーに才能を認められてボリショイのバレエ・アカデミーの試験を受ける。
反抗的な態度に教師たちは不合格にしようとしたけれど、元プリマで講師であるガリーナは、彼女の才能を見抜き強引に合格させる。やがてユリアはその才能を開花させることで、頭角を顕してくる。
もう一人はカリーナというお金持ちの女性。彼女も才能豊かで、将来のプリマとして期待されていた。必然的に二人は同級生として争い、かつ友情を深めていく。ユリアは認知症を患ってしまったガリーナによって何度も退学処分になりそうな目に遭うけれど、なんとか卒業公演で主役の座を射止めた。
カリーナは敗北を認めたけれど、彼女の母親はそれを許さない。大金をつかませてユリアを買収しようとした。もちろんユリアはそれを拒否する。ところが卒業公演の当日になって、ユリアは主役をカリーナに譲って劇場を去ってしまった。
その数年後、カリーナはボリショイのプリマとなり、有名なバレエダンサーとして注目を浴びていた。一方ユリアはバレエの世界には残ったけれど、カリーナの後で踊る大勢の踊り手の一人でしかなかった。
そんなときボリショイでは、世界的に著名なダンサーであるアントワーヌを招いて公演が行われることになった。もちろん相手役はカリーナで、ユリアは彼女の代役として練習に励んでいた。
だけど公演の当日、アカデミーの卒業公演と同じようなことが起きる。今度はカリーナが足の怪我をしたと嘘をついて、ユリアに主役を譲ってしまった。それは卒業公演のとき、母親が主役を金で買い取ったことを知ってしまったから。
ユリアは卒業公演の主役が決まったとき、家族に喜んで欲しくて実家を訪ねた。だけど実家の貧しさは絶望的で、父を事故で失った母親と兄弟たちは、残飯を漁って生きているような状況だった。主役を喜んでくれるどころか、母親と大喧嘩をしてしまう。
実家の悲惨な状況を知ったユリアは、主役の座をカリーナに譲ることでお金に変えた。そうするしかなかったから。貧乏でも才能がある人は、国が税金で教育してくれる。だけど家族の面倒まで見てくれるわけじゃないからね。
ということでラストシーンは、ボリショイ劇場の舞台で主役の舞台に立つユリアのシーンで終わる。伏線がうまく張られていて、とても楽しめる作品だった。とにかくバレエが本当に素晴らしい。映画の面白さだけでなく、本物のダンサーたちの美しい姿を堪能できる良作だった。
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