交流VS直流の電流戦争
AC/DC という70年代に結成された有名なロックバンドがある。いまではメンバーの年齢がほぼ70代となった現役のバンド。名前の由来はミシンに書かれていた文字を使ったそう。
少し変わったバンド名は『交直両用』という意味なんだけれど、アメリカではバイセクシャルを表す隠語らしく、結成当時にはゲイバーからの出演依頼が多かったという逸話がある。ある映画を観てこのバンドの名前を思い出した。
ところがその意味は正反対で、AC対DCという19世紀後半の電流戦争を扱った伝記映画だった。そのACの代表は、あのトーマス・エジソンだった。
2021年 映画#122
『エジソンズ・ゲーム』(原題:The Current War)という2017年のアメリカ映画。日本での公開は2020年だったそう。事実に基づいた作品とことわってあったので、フィクションも含まれているということだろう。
1880年ころからこの戦いが始まっている。すでにエジソンは蓄音機、さらには白熱電灯も発明していて全米で知らない人がないほどの有名人。電球ができたからには、それらを使用可能とするためアメリカ全土に電力のインフラが必要となってくる。その方式に関する争いが、電流戦争と呼ばれている。戦うのは3人。
トーマス・エジソン。
ジョージ・ウェスティングハウス。
ニコラ・テスラ。
エジソンは最初に書いたように直流を推した。ところがウェスティングハウスはコストが削減できて、かつ遠くまで電気を送ることが可能となる交流を推した。最初に戦いを始めたのはこの二人。
ところがエジソンはかなり嫌な奴。有名人であことでプライドが高く、自分の主張が絶対だと思い譲らない。エジソンの会社の社員となったテスラが交流方式主張しても無視。絶望したテスラはエジソンの会社を去る。
一方ウェスティングハウスは人格者。元々はエジソンと一緒に仕事をしたいと思っていたけれど、どうしても直流しかエジソンは納得しない。それで戦うことになったんだけれど、経済界のほとんどはコストのかからない交流を支持した。
そこでエジソンは非道な行動に走る。交流が危険だというネガティブキャンペーンを張り、世間のイメージを誘導しようとした。このあたりはエジソンを演じたベネディクト・カンバーバッチの演技が光っていた。ちょっと嫌なやつを演じさせたら彼の右に出る人はいない。
さらにウェスティングハウスを演じたマイケル・シャノンが最高。さすがの名優だよね。常に冷静で無駄な喧嘩をしようとしない。だけど片腕にしていたホープが事故で感電死してしまったことで絶望する。エジソンはこの事故を追い風として世間に交流が危険だとアピールしてきた。
追い詰められたウェスティングハウスはついにエジソンと本気で戦うことにする。エジソンが死刑囚の電気椅子を闇で設計していた事実を調べ、その証拠を報道陣に公開した。さらにエジソンと確執のあったステラがウェスティングハウスの会社に加入することで、死んだホープの穴を埋めて新しいモーターの開発に成功した。
ということでボクたちが普段は交流の電源を使っているように、この戦争は交流の勝利となった。その影にこんなやり取りがあったのを知らなかったので、とても興味深く観ることができた。
ただ映画としては盛り上がりにかけていて、キャストの演技力だけでどうにか維持されていた作品だったように思う。どうやらプロデューサーと監督とのあいだにトラブル続出だったらしく、そちらの戦争が電流戦争に影響していたみたい。それゆえ日本で公開されたのはディレクターズカット版らしい。
ボクとしては、偉人だとされているエジソンがクソ野郎として描かれていたことにとても好感をもった。そのほうが人間らしくていいと思う。
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