映画と原作の差異は宝物
小説を原作としている映画は多い。ボクは映画も小説も大好きなので、気に入った作品はどちらも体験するよう意識している。何より面白いのは、映画と原作との差異。これらはクリエイターにとって宝物のようなものだと思う。
動画と文字というのは、根本的に表現方法がちがう。もっとストレートないいかたをすれば、相容れないものだと思う。同じテーマを扱っている作品なのに、媒体のちがいによって受け取る印象が大きく変わってくる。
だからこそ映画を創作する人は、映画だけでなく原作を読んだほうがいい。そして小説を書く人は、原作だけでなく映画も観るべき。そしてその差異を明確にすることで、それぞれに多くのことを学べると思う。
少し前、『レディ・プレイヤー1』というSF映画を観た、スティーブン・スピルバーグ監督の作品で、最初から最後まで楽しむことができた。ということでこの原作を読むことにした。まだ上巻だけれど、原作の素晴らしさと同時に映画の質の高さも感じられる内容だった。
2021年 読書#103
『ゲームウォーズ』上巻 アーネスト・クライン著という小説。
物語の基本は映画と同じ。舞台は2040年代の地球。世界は環境汚染や気候変動で荒廃していて、貧富の格差がひどい。貧しい人たちはトレーラーが積み重なった集合住宅でどうにか生きていた。主人公のウェイドも同じで、両親を亡くした彼は叔母のトレーラーで世話になっていた。
唯一の心の救いは、オアシスという仮想空間。無料でアクセスできるので、VRのセットがあれば現実世界と変わらないリアルな世界で過ごすことができる。そのオアシスを開発した大富豪のハリデーが死去した。
彼の遺言によると、オアシス内に隠された3つの鍵を見つけると、オアシスの所有権と50兆円以上の遺産のすべてを受け取れる。その争奪戦を描いた物語。
主人公のウェイドのアバター名はパーシヴァル。ここまでは映画と同じ。ところが原作はかなりちがう。映画のパーシヴァルはそこそこカッコいい少年だけれど、原作の彼はデブでモテない。ただし80年代のポップカルチャーオタクで、同じオタクであるハリデーのことに詳しい。
映画ではいきなりカーレースによって1つ目の鍵がゲットされることになる。でも原作は地味に場所を探し、ビデオゲームに勝たなければいけない。そこに至るためには、ハリデーに関する膨大な事情を熟知している必要がある。ということでオタクのパーシヴァルが世界で最初に1つ目の鍵を見つける。
原作では親友であるエイチも登場する。アバターのエイチは頼りになるレスラーのような肉体をしている。その他にもダイトウという仲間も出てくるけれど、映画ではゾウという仲間が、原作ではダイトウの弟でショウトウという名前で登場する。
もちろんヒロインであるアルテミスも出てくる。アルテミスはパーシヴァルに続いて第1の鍵をゲットする。映画ではこの二人はラストに向けて自然と恋愛関係になっていく。でも原作ではまだ第1の鍵を見つけた段階で、二人は互いの気持ちを確認している。ここが原作の見どころ。
だけど二人は近づき過ぎたことで、第2の鍵を見つけることに集中できない。そう感じたアルテミスに、なんとパーシヴァルはフラれてしまう。上巻の最後では、二人は絶縁状態となってしまった。
失意のパーシヴァルは第2の鍵を探すため、彼の命を狙うソレントから身を隠せる場所へ引っ越す。そしてそこに引きこもりつつ、なんとAIを使ってダイエットに取り組む。ということで上巻のラストでは、映画のようにスッキリとかっこいいパーシヴァルになるという展開だった。
映画とちがって原作は尺が長いので、パーシヴァルとアルテミスの恋愛にじっくりと時間が割かれている。だからより深く、二人に感情移入することができる。とにかくちがいを書いていたらキリがないけれど、映画とは別の物語として楽しめる原作となっている。
下巻でのちがいを想像しながら、近いうちに下巻を読もうと思う。
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