培養肉に必要なもの
食肉は工場で培養するもの。いまの小学生が老人になるころには、それが常識となっていると思う。ぜひとも、そうあって欲しい。
栄養学についてここで論じるつもりはない。ヴィーガンの人たちが主張していることも知っている。それでも人間にとって動物タンパク質は必要なものだと考えている。だけど現状における家畜の扱いについて、人類は本気で考え直すべき時期に来ていると思う。
その名目はいくつもある。食肉用の家畜飼育をやめることは、温室効果ガスの削減につながることもよく知られている。そしてヴィーガンの人たちが主張している、動物の命を守ることにも貢献できる。
そこで登場するのが培養肉。この技術は実用化段階まで来ている。牛や魚から採取した細胞を培養することで、食肉として提供することは可能となった。ただ大きな課題があるのも事実。
今月の22日から、アメリカのサンフランシスコで培養肉に関するシンポジウムが開催されている。リンク先の記事によると、スタートアップ企業や専門家など、150人が参加しているとのこと。
培養肉を作ることはできる。だけど最大の問題は、量産化できないということ。何らかの技術革新がないと、世界に供給するだけの食肉を作ることができない。それゆえこのシンポジウムにおいて、主催者は量産化への連携をするよう世界の企業に呼びかけている。
もちろん多くの企業がすでに研究中のはず。なぜなら培養肉事業に関して、2030年には市場規模が１兆４０００億円という予測が出ているから。つまり最初に量産化の技術を開発した企業が、その市場を席巻できるということ。その点に関しては心配ないと思う。
培養肉に関しては、それ以外に検討すべきことがある。最大の課題は畜産業と食肉業界に関すること。歴史的にも古く、各国によって産業構造が固定化されている。もし培養肉が量産化できることになれば、強烈な反発が業界から起きるのは必至。
多くの人の雇用が失われ、他の業界にも混乱が波及するだろう。培養肉の工場に雇用される人もいるだろうけれど、何十年も羊飼いのような仕事に従事してきた人に転職は難しいと思う。そう考えると、培養肉への移行は時間をかけなくてはいけない。もしかしたら半世紀単位の時間が必要かも。
もうひとつ気になるのは食肉としての価値。栄養素に関しては研究されているはず。必要なアミノ酸を摂取することに問題はないだろう。だけど培養肉が、本当にこれまでの食肉にとって変わることができるのか？ ここがもっとも気になる。
ボクがいいたいのは、栄養学的なことじゃない。批判はあるだろうけれど、食肉は動物の命をいただいている。生まれて、子孫を残し、この大地に足を踏みしめていた動物たちの命を食べている。だけど工場で作られた培養肉に、命を有していた動物たちと同じ生命パワーが存在しているかどうか？ ボクはそのことについて一抹の不安を持っている。
食べるということは、命をいただくこと。そこには栄養学を超える『何か』があるような気がする。細胞を培養したものに、その『何か』が存在するのかどうかが気になっている。培養肉に必要なのは量産化の技術だけでなく、命の代替としての価値があるかどうかだと思う。
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