役所業務に感じる強い憤り
経理や総務関連の仕事をしていた関係で、ボクは役所に出向くことが多かった。税務署を筆頭に、府税事務所、区役所、社会保険事務所、労働基準監督署などは数えきれないほど行った。従業員の出入りが多い会社に関わっていたことで、公共職業安定所の職員に顔を覚えられていたこともあったほど。
税理士事務所で働いていたときは、法人設立もやったので公証人役場や法務局にもよく通った。なかでも面倒だと感じたのは法務局に提出する書類。様式が決まっていて、一字でもまちがっていると返される。まぁそんなことを言われないよう、ボクはかえって闘志が燃えるんだけれどね。
とにかく役所の手続きは面倒。知識や経験のない人を排除しようとしているようにしか見えない。最近でもコロナ禍で経済的に困っている人が大勢いるのに、生活保護の手続きが複雑で断念している人が多いという記事を読んだ。あるいは親戚に生活保護の申請を知られたくない人は、困っていても申請できなかったりする。
そんな役所の面倒なシステムは、日本だけじゃないらしい。イギリスでも同じで、その事実に憤慨した人たちがある映画を作った。
2021年 映画#167
『わたしは、ダニエル・ブレイク』(原題:I, Daniel Blake)という2016年のイギリス・フランスの合作映画。ざっとストーリーの概略を見たとき、ハートウォーミングなドラマかと思った。ところがイギリス社会の現実を突きつけられる作品で、憤りしか感じない物語だった。
主人公はタイトルでわかるようにダニエル・ブレイク。妻の介護をしながら大工を続けていた。妻を看取って一人暮らしだったけれど、心臓発作を起こして倒れたことで失業。とりあえず動けるようになったけれど、医師はまだしばらくは仕事を禁止していた。
そこで失業給付の申請を役所にした。ところが役所は横柄な態度で、かつ杜撰な裁定をされた。医師から仕事が止められているのに、職務可能と判断されて給付が見送られた。そこで不服申し立てをやろうとするが、これがかなり複雑な手続きが必要。ネットでのアクセスが必須で、高齢のダニエルには手も足も出ない。
仕方なく失業給付をもらうために手続きをする。これは日本と同じように求職活動が条件となる。医師から仕事を止められているのに、失業給付を得るために面接を受けなければいけない。相手が気に入って就職を依頼されても断るしかない。とにかくダニエルは、不合理極まりないシステムにがんじがらめになっていた。
同じく役所で知り合ったシングルマザーのケイティ。二人の子供を抱えてロンドンからニューカッスルに越してきた。だけど道に迷って面接に遅れただけで、罰則規定が適用されて生活保護が受けられない。見るに見かねたダニエルが抗議するけれど、役所はルールだと言って拒否するだけ。
優しいダニエルはケイティ親子たちの生活を助ける。金はないけれど、大工なので自宅の修理等はできる。でも貧困に押し潰されたケイティは、子供たちを食べさせるために売春をするしかなくなってしまう。本当に切ない。
この映画のタイトルは、公務員の対応にキレたダニエルが役所の壁に落書きした書き出しの言葉。大勢の人が役所の対応に不満を持っていて、ダニエルの主張に拍手を送るシーンが感動的だった。
ようやく不服申し立てが認めらそうになった。医師の主張が採用されたから。ところがその裁定が出る前に、ダニエルは心臓発作で他界してしまう。とても悲しいシーンだけれど、役所の怠慢がどのようなことを引き起こしているかを象徴するシーンだと思う。
楽しくないけれど、素晴らしい映画だったと思う。ダニエルを演じた俳優さんも素敵だったけれど、ケイティ役の女優さんは最高の演技だった。この作品で英国アカデミー賞の助演女優賞を受賞している。あまり知らない女優さんだけれど、さすがイギリスの俳優さんだよなぁ。
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