狂気を誘う戦争の幕引き
かなりショッキングな映画を観た。実話だけにシャレにならない。リーダーの狂気に翻弄され、最悪と言っていい戦争の幕引きとなった舞台裏を描いたもの。
物語の舞台は1945年のドイツ。ナチスドイツが首都ベルリンの陥落を受けて、ヒトラーが自決するまでの12日間を描いた作品。
2021年 映画#169
『ヒトラー 〜最期の12日間〜』(原題:Der Untergang、英題:Downfall)という2004年のドイツ映画。この映画は2つの書籍を元にして作られている。
ヨハヒム・フェストというドイツの歴史研究家が記した『ヒトラー 最期の12日間』という作品。もうひとつはトラウデル・ユンゲという女性が書いた『私はヒトラーの秘書だった』という回想録。
この映画はそのトラウデルが戦争開始直後に秘書として採用されるシーンで始まる。そのシーンが上記の写真。全体を通じて彼女の目線で描かれた映画で、ヒトラーの自殺後、彼女がベルリンの総統地下壕を脱出してソ連兵から逃亡するシーンまでの物語。
同じ時期に戦争を行った日本の終戦については、様々な物語や映画、あるいはドキュメントで知っている。でもドイツに関しては1945年の5月に全面降伏したこと、そしてその少し前の4月30日にヒトラーと彼の妻となったばかりのエヴァの自殺を知っていた程度。
いよいよベルリン陥落という状況を迎えて、この作品ではドイツ軍の本部で何が起きていたのかが詳細に描かれていた。ヒトラーは狂気に取り憑かれたようになって、完全に見当識を失っていたように感じた。でも部下たちはヒトラーが変だと思いつつも、命令に従わざるを得ない。諦念と狂気に満ちた地下壕の様子を見ているだけで、息が詰まりそうな恐怖を感じた。
もっともショックだったのは、ヒトラーの自殺後に命を絶ったゲッベルズの自決。彼は妻と5人の子供を地下壕に呼び寄せた。そして子供たちを先に毒薬で殺し、夫婦は銃で命を絶っている。言葉にならないほどの衝撃だった。
ヒトラー夫妻も、そしてゲッベルズ夫妻も、部下に命じて遺体を火葬させている。連合軍の連中に死に顔を見せるなという遺言だった。まるで戦国時代の武将のようで、ボクは織田信長を思い出した。
そんな狂ったようなヒトラーだけど、秘書たちには優しい上司だったらしい。この映画で秘書のトラウデルの目線になると、とても優しいオジサンに変貌する。愛人で妻となったエヴァに言わせると、恐ろしいのは総統としてのヒトラーだけらしい。おそらく女性たちには優しく接する紳士だったのかもしれないね。
だけど自暴自棄になったヒトラーは、国民たちを避難させようとする部下の諫言を無視する。生き残れない奴は自業自得とまで言い捨てる。そのせいでソ連軍の侵攻に伴い、大勢の人が命を落とした。さらに狂ったようにアカ狩りをするドイツ兵によって、命を落としたドイツ人たちもいた。誰もが狂っていたとしか思えない。
この映画を観て、ボクはこのときのことをもっと知りたくなった。ということでまずは秘書だったトラウデルの回想録を読んでみようと思う。そして次には歴史学者が書いた書籍も読むつもり。
ちなみにこのトラウデルさんは、2002年に81歳で亡くなっている、この映画の冒頭とラストでは、実際の彼女のインタビュー映像が挿入されている。印象に残っているのは、秘書としてヒトラーと共に仕事をしていたけれど、ナチスがあれだけの虐殺行為を行なっていたことは知らなかったそう。そしてそのことを悔いておられる様子だった。
灯台下暗し、ということなんだろう。とにかくヒトラーの遺言までタイプしたという、彼女の目から見たヒトラーをもっと知りたい。回想録を楽しみにしている。
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