意外なことに色事がなかった
シリーズ作品は、決まったパターンがあることでファンは喜ぶ。その作品に接してきた過去の積み重ねがあるから。それゆえ水戸黄門で印籠の登場シーンがなければ、ファンの人はがっかりしてしまう。
あるシリーズ小説で、そんな水戸黄門のようなことが起きた。いつものシーンを期待していただけに、かえってパターンが崩れたことで新鮮な感動があった。これは人気シリーズ作品ゆえの手法だろうと思う。いい勉強になった。
2021年 読書#124
『パーソナル』下巻 リー・チャイルド著という小説。上巻の感想についてては、『最強のホームレスが海外進出』というブログに書いているので参照を。トム・クルーズ主演で映画化された『ジャック・リーチャー』シリーズの作品。映画化は2作品だけれど、原作は昨年までに25作が出版されている。
残念ながら邦訳されているのはいまのところ12作だけ。ずっと追いかけてきたけれど、この作品を読了したことで残り2作品になった。残りもすべて邦訳してほしいけれど、日本の出版社はそこまでする気はなさそう。
さて今回のジャックは、上巻の感想でも書いたように初めて海外へ進出した。元上官である将軍のトム・オディに呼びされたジャックは、ある密命を受けることになった。それはかつて彼が陸軍の警察官だったときに逮捕した、ジョン・コットに関わること。
刑期を終えて出所したジョンは、フランス大統領の暗殺未遂の実行犯だと思われる。そして本当の目的はロンドンで開催されるG8会議。世界の首脳が集まる場所で暗殺を決行するらしい。その暗殺に協力しているのがイギリスのギャング。
ということでロンドンに向かったジャックの活躍が下巻で描かれている。同行したのは CIAの若手女性エージェントであるケイシー・ナイス。今回のマドンナで、ボクが最初に書いたパターンだと彼女とジャックはいい仲になるのが定石のはず。
ところが今回のジャックは彼女に関心を示さない。魅力がないのではなく、別のことを考えていたから。現役の軍人時代、彼は同じ雰囲気の若い女性部下を死なせている。逮捕確実になったある容疑者に対する手柄を立てさせるため、一人でその女性兵士を向かわせた。
その結果、その女性兵士は身体を真っ二つにされた悲惨な遺体で見つかる。そのときのトラウマがあって、ジャックはケイシーに元部下の姿を重ねて見てしまう。優秀な女性だけれど、不安症で安定剤が手離せない。ちょっとメンヘラ傾向がある女性だった。
それゆえ今回のジャックは、彼女の安全を守りつつ、安定剤なしにでも現場で活躍できるエージェントに育てることが目的だった。だからチャンスはあっても、そういう関係にならなかった。そんなジャックがとても素敵で、このパターンもいいものだと感じた。
もちろん事件は見事に解決。ケイシーも無事だった。ジャックによってロンドンのギャングも、そしてスナイパーのジョン・コットも殺されてしまう。それだけでなく今回の事件の真相も見事に暴いた。
ジョンの目的はただ一つ。自分を逮捕したジャックを殺すことだった。G8なんて全く関係ない。実はジョンを操っていたのは、ジャックに声をかけた将軍のトム・オデイだった。トムは自分の落ち目になった状況を改善するため、ジョン・コットにある仕事をさせた。
その見返りがジャックの命だった。つまりジャックは殺されるために、元上官に呼び出されたということ。だけどジャック、そしてケイシーの捜査によってその陰謀が明かされるという結末。いつもとパターンが違うけれど、この作品も映画化してほしいと思う内容だった。
残る原作は2作品となった。ちょっと寂しいけれど、読了しようと思っている。ちなみに海外でこのシリーズがドラマ化されるらしい。いつか日本でも観られたらいいな。
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