幸せを育てる訳あり物件
お世話になった方の訃報を電話で伝えていただいたのは一昨日。亡くなったその方に恩返しすることをモチベーションにして日々を過ごしてきたので、ショックのあまり呆然としている。まだお若いので、さぞかし無念だったと思う。死が終わりでないことを知っておられた方なので、いつかお会いできると信じている。
そう思って気持ちを落ち着けても、昨日になってネットニュースで訃報を見てしまうと、事実であることを思い知らされて辛かった。でも落ち込んでいるより、少しでも前に進んでいる姿をお見せしたい。だからいつものようにブログを書こうと自分に言い聞かせている。
さて物語において大切なのは場面設定。できることなら突飛で非日常的なものがいい。かといってリアリティに欠けるとつまらない。その微妙なバランスを効果的に盛り込んだ楽しい映画を観た。
2021年 映画#184
『ニューヨーク 最高の訳あり物件』(原題:Forget About Nick)という2017年のドイツ映画。ドイツ映画といっても、舞台はニューヨーク。だから登場人物の関係で時おりドイツ語が出てくるけど、基本的に英語でのハリウッド映画のような雰囲気だった。
最初に書いたように場面設定がユニーク。主人公は元カリスマモデルのジェイド。夫のニックに資金援助をしてもらうことで、自分のブランドを立ち上げようと奮闘していた。ところがいきなり夫に若い愛人ができて、離婚裁判の手続きが開始された。夫も資金も失ったジェイドは途方に暮れる。
そんなジェイドにさらなるトラブルが発生する。ジェイドはニックの最初の妻ではなく、離婚した先妻がドイツのベルリンにいた。ところがジェイドが暮らすニューヨークの豪華アパートは、ジェイドと先妻のマリアに慰謝料として分与されることになった。このあたりの法律的なことは不明。婚前契約が関係しているらしい。
ということで夫のいない高級アパートで、元妻となったジェイドと、元元妻であるマリアが同居することになった。性格も趣味も生き方もまったくちがう二人。それだけに観ているボクらは面白いし、つい笑ってしまう。そして喧嘩を通じてドラマが生まれてくる。
ジェイドはアパートを売却してお金に換えることを考えた。会社の資金にもなるし、マリアとも離れて暮らせる。ところがマリアは定職が持てず、その家にいることを望む。さらにニックとの間にできた娘と、その息子である孫をニューヨークに呼び寄せる。
それまで優雅に暮らしていたジェイドにすれば、そんな生活はカオスでしかない。ストレスで仕事はうまくいかないし、精神的にボロボロになってくる。ところがそんな彼女を支えてくれたのは、先妻のマリアであり、その娘のアントーニアだった。
結末はちょっと意外だった。愛人に捨てられたニックがジェイドに寄りを戻すように懇願する。普通は断るよね。ところがジェイドは悩んだ末にその申し入れを受ける。彼女にとって、スポンサーであるニックは必要でもあるから。ただしジェイドは条件をつけた。それが先ほどの写真の場面。
「二人一緒なら、寄りを戻していい」
なかなかオシャレな結末。元夫との愛だけでなく、先妻のマリアとの友情も守ったジェイド。訳あり物件だったけれど、ジェイドにとって苦しみながらも新しい幸せが育った場所なんだろうと思う。俳優さんたちの素晴らしい演技を堪能できる良作だった。
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