余命告知の是非について
死と睡眠はどこか似ている。極論だとしても、眠りに落ちて永遠に目覚めないのが死という現象だと思う。今年還暦を迎えるボクとしては、やはり自分の人生が終わりに近づいていることを感じてしまう。だから眠る前、そのまま目覚めない場合のことを毎夜想像している。
真剣に想像することで、自分の死生観がより深く、より明確になっていくように思うから。ただ眠るように死ねる人はほんのひと握り。大抵の人は死期を迎えて意識がなくなる寸前に苦痛を体験する。死が恐ろしいのは自我消滅への抵抗だけでなく、その苦痛を体験する可能性が高いことも影響しているはず。
医学の進化により、病気における余命算定が正確になってきた。そうなると問題は患者に告知するかどうかということ。それについては賛否があるだろう。人によって考え方がちがうから、絶対的な答えは見つからない。
ボクの場合は告知して欲しい。残り時間を知ることで、少しでも悔いをなくしておきたいから。完全には無理だとしても、できる限りのことをしてから旅立ちたい。だから家族や医師がその事実を隠していたら、あの世に行ってからでも怒り狂って化けて出るだろうと思うwww
だけどそれはボク個人としての考え。絶対に知りたくないという人もいる。それはそれで、その人の気持ちを尊重するべき。だけど親しい人の本心がわからないとき、余命告知をするかどうかの判断は難しい。その葛藤をテーマにした映画を観た。
2022年 映画#1
『フェアウェル』(原題:The Farewell)という2019年のアメリカ映画。末期宣告を受けた祖母と孫娘の交流を描いた物語。
主人公のビリーはニューヨーク在住の若い女性。作家を目指しているが、なかなかうまくいかない。彼女が六歳のときに両親は中国からアメリカへ移住。だからビリーはアメリカ人として育ち、中国語はあまりうまくない。
だけど中国の長春で暮らす祖母のナイナイとは大の仲良しで、いつも電話でやりとりをしていた。ところがある日、急に両親が中国の実家へ向かうという。理由はビリーの従兄弟が結婚するから。従兄弟家族は日本に移住していて、日本人女性との結婚が決まっていた。
でも従兄弟の結婚は家族が集まるための理由。祖母のナイナイは末期の肺がんで、余命幾ばくもない状態だった。だけど祖母はその事実を知らない。アメリカ在中の父と日本在住の叔父が相談して、祖母には隠し通すことに決めた。だから感情が顔に出るビリーはニューヨークにとどまるようにと両親から言われる。
どうしても祖母に会いたいビリーは、その約束を無視して長春へ向かう。そして親戚一同で一緒に過ごし、従兄弟の結婚式を終えてニューヨークに戻るまでの物語。結論として、家族たちは最後まで嘘をつき通す。
この映画で初めて知ったけれど、アメリカでは余命宣告を患者にしないことは違法になるらしい。だからアメリカで診察を受けた人は、本人の意思に関わらず余命告知される。だけど中国では本人は伝えないというのが多数派とのこと。それは日本と似ているかも。
アメリカ人のビリーとしては、祖母に伝えるべきだと主張する。祖母の人生を悔いなく過ごさせてあげたいという想いだった。だけど両親たちは反対する。誰もが愛するナイナイとの別れを自覚しながら、悲しみをこらえて必死で笑顔を作る。俳優たちの演技が素晴らしくて、とても見応えのある作品だった。
どうやらこの作品は実話に基づくものらしい。そしてエンドロール前にオチがある。
本物のナイナイらしき高齢の女性が登場して、告知診断されてから6年後も元気に過ごしているとのこと。つまり結論としては、ナイナイには告知しないほうがよかったということかもしれない。中国人の考え方としては、『人間はガンによって死ぬのではなく、恐怖によって殺される』とのこと。
もしナイナイに告知していたら、彼女は気落ちして早くに亡くなったかもしれない。でも告知しても同じだったかも。とにかく答えなんてない。どうするかは、それぞれの人が考えるべきことなんだろう。ただアメリカの場合は違法になるから、告知をしないという選択肢がないけれど。
ビリーを演じたオークワフィナという女優さんが素晴らしかった。いい雰囲気の役者さんだよね。どこかで観たことがある気がして調べてみると、『オーシャンズ8』に出演している俳優さんだった。この映画でゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞している。それが納得できる素敵な演技だった。
ブログの更新はFacebookページとTwitterで告知しています。フォローしていただけるとうれしいです。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。