史実へのリスペクトが皆無
小説でも映画でも、実際にあった出来事を物語にするのは難しい。どのように描くかはクリエイター次第。シリアスなドキュメントタッチもあるだろうし、皮肉をこめたブラックユーモアという手法もある。あるいは感動的な部分を取り上げて強調したり、徹底したコメディとして事実を伝える方法もある。
だけど事実を物語にする場合、絶対に忘れてはいけないことがある。
それはその事実に対する『リスペクト』の想い。それをなくしてる、あるいはなくしているように感じさせる作品は、はっきり言って失敗作だと思う。そんな映画を観てしまった。
2022年 映画#20
『新解釈・三国志』という2020年の日本映画。三国志というのは中国の史実に基づいた有名な物語。魏、呉、蜀の3国が三つ巴となって中国の覇権を争った史実を扱ったもの。日本でも人気で、テレビゲームにさえなっている。
ボクは少年時代から三国志のファンで、この物語の世界観に惚れている。だからといって、それがゲームとなったり、アニメとなることに異論はない。事実が捻じ曲げられていたり、誇張されていたとしても気にならない、そこに『リスペクト』の精神があるのなら。
だけどこの映画からは、まったく『リスペクト』の想いを感じなかった。三国志で有名な桃園の誓い、董卓の独裁と呂布の裏切り、そして最大の見せ場である赤壁の戦いに対して、新解釈と称して映画化されている。基本的な路線としては、コメディに徹するということ。
蜀の皇帝である劉備に大泉洋さん、諸葛孔明にムロツヨシさんを起用していることで、それがコメディだとわかる。それはまったく構わない。この映画で使われた新解釈は出鱈目すぎるけれど、コメディとしては容認できる。ただ、ただ、あまりに脚本や構成がひどい。
ボクはかなり笑った。だけどそれは脚本の流れではなく、大泉洋さんやムロツヨシさん、さらに魏の皇帝である曹操を演じた小栗旬さんの演技が面白かったから。彼らの演技力による間の良さとかツッコミに笑っただけ。
ストーリーは過去にドリフターズがやっていた『8時だよ全員集合』のコントレベル。凡庸で笑いのツボなんて無視だし、はっきり言って白ける内容ばかり。貂蟬という美女を使って董卓と呂布を半目させるという場面なんか、あまりにつまらなくてスイッチを切ろうかと思った。
これは俳優さんが気の毒。例えばいまの大河ドラマでは、大泉洋さんが源頼朝、そして主演の小栗旬さんが北条義時を演じている。この大河ドラマもよく笑わせてくれる。だけど同じ二人なのに、受ける印象はまったくちがう。
それは三谷幸喜さんが、笑わせるだけの脚本にしていないから。史実を扱っていることで、締めるところはキッチリと締めておられる。物語の流れに緩急があることで、笑いの部分も、そしてシリアスな部分も感情移入できる。それは史実に対する『リスペクト』があるからだと思う。
三国志の有名なシーンの勝手な解釈を、最初から最後までつまらないコントで終わらせてしまっただけの映画だった。この映画を作って、何を伝えたかったのかまったくわからない。久しぶりに残念な映画だった。
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