まさに諸行無常の世界
久しぶりに焦った読書だった。図書館で借りた本だけれど、その後の予約があるので延長できない。ところがその本は900ページもある大作。
さらに登場人物が多く、その呼び名が古めかしい。それゆえ何度も確認しながら進むので、1日に100ページ進むのが無理だった。結局読み始めて読了するまでほぼ13日かかったけれど、なんとか期日まで返却することができた。
無事に読了できてほっとしているけれど、まだその物語の余韻に浸っている。ただ、ただ悲しく、そして言葉にできないほどたまらなく切ない物語。諸行無常の世界を象徴した物語として有名だけれど、おそらくこの物語以上にその精神を語ってくれる他の作品はないと思う。
2022年 読書#13
『平家物語』古川日出男 訳という物語。説明するまでもなく鎌倉時代に成立した軍記物語。平家の栄華と没落を描いたもので、武士が歴史の中心となっていく時代を語っている。作者は不明だけれど、以前から複数の作者によって編纂されたと言われている。
その膨大な物語を古川さんが現代語訳にした作品。書かれている文章が持つ世界観やリズムが失われないよう、心を込めて訳されているのがよくわかった。おそらく大変な作業だったろうと思う。おかげで断片的にしか知らなかったこの物語の全貌を読むことができた。本当にありがたい。
きっかけは今年になって『平家物語』のアニメが木曜の深夜にスタートしたこと。ちょうど吉川英治さんの『新・平家物語』を昨年の暮れから少しずつ読んでいたところなので、アニメを見ることにした。そこでこの本が原作だと知り、すぐに図書館で予約した。
内容についてはいいだろう。平家の栄華や没落の物語は、能や歌舞伎でも描かれていて、数々の物語を生み出している。だけど歌舞伎の『俊寛』などは、この『平家物語』を読んでから鑑賞するほうがいいかも。離島に流された3人のうち、彼だけが都に戻るという恩赦を受けなかった。その孤独たるや、想像を絶すると思う。いまこの歌舞伎を見たら、俊寛の絶望を自分のことのようにして感じられるかもしれない。
この作品は平家目線で書かれている。それゆえ今年の大河ドラマで主人公となっている源頼朝や北条義時は、どちらかと言えば敵という雰囲気になってしまう。だけどこの物語は琵琶法師が語っているゆえか、仏教の教えを広める意図があるんだと思う。
だから平家の奢りが因果として滅亡を迎えたことを語っている。単なる同情の物語ではない。平清盛の嫡男である平重盛は、父親が改心しないなら、自分の命を奪ってほしいと祈願した。その結果、平家の良心だった平重盛は誰よりも先に病死してしまう。
その重盛の嫡男である平維盛の最後も切ない。屋島にいた維盛は京都に残した妻子に会いたい。だけど都に戻ることはできず、高野山で出家したのち、入水自殺をしている。そうするしか極楽浄土への道がないと思ったから。本当に切ない。
そして維盛の嫡男である六代。まだ少年だった彼は、僧侶の文覚のとりなしによって頼朝は命を助けた。だけど源氏は容赦しない。頼朝が亡くなったあと、難癖をつけて六代を殺している。結局女性を残して、平家の血をひく男性はすべて根絶やしにされている。早くから頼朝に内通していた平頼盛を除いて。
これでようやく『平家物語』の全体像が見えた。これからはしばらくアニメを楽しみ、そして吉川英治さんの『新・平家物語』を2年くらいかけて楽しもうと思う。平家の公達たちの心に想いを馳せて。
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