貧乏神の天敵ってわかる?
つい先日まで900ページもある『平家物語』の現代語訳を読んでいたので、2週間近くも同じ本を手にしていた。その大作を読み終えて、久しぶりに普通の単行本に戻った。やっぱ本が薄いなぁ、と思いつつも、どことなくほっとした気持ちで読書を楽しむことができた。
2022年 読書#14
『いちねんかん』畠中恵 著という本。2001年から続いている『しゃばけ』シリーズの第19弾となる作品。2020年に出版された書籍なので、この作品を読了したことで、最新作に追いつくのにリーチをかけられた。残すのは昨年に出版された最新作のみ。
といっても年に1度は新作が出ているので、おそらく今年の2022年も発表されるだろうと思う。それまでに追いついておこう。いつも書いているので重複するけれど、物語の全体像について簡単に触れておく。
主人公は一太郎という青年。廻船問屋兼薬種問屋の長崎屋の後継息子。ところが彼の祖母は大妖という位の高い妖(あやかし)、つまり妖怪という設定。いまは死んだことにして神の庭で奉仕をしている。
病弱ですぐに死にそうになる孫の一太郎を心配して、祖母は齢千年以上の妖を孫の元に送った。それが佐助と仁吉という二人の手代。その正体を知っているのは一太郎と、同じく妖の血をひく母だけ。さらに一太郎が暮らす離れには、彼を慕って多くの妖が同居していた。
とまぁレギュラーである妖たちと共に、一太郎は様々な事件や困りごとを解決していくという物語。ここ数回でレギュラー陣は落ち着いてきたので、物語も円熟味を増しているような気がする。
今回の設定はちょっと面白い。跡継ぎである一太郎だけど、病弱なので本人でさえ将来に不安を持っている。両親は過保護でいつも心配ばかりをしているけれど、息子のためによくないと思った。たまたま前回の事件で一太郎の父は死にそうな目にあった。
ということで今回は養生を兼ねて、一年ほどの湯治治療の旅に出ることになった。つまり一太郎が長崎屋を一年間仕切っていかなくてはいけない。そんなドタバタの一年間が、5つの短編で語られている。今回も本当に面白くて、あっという間に読み切ってしまった。
『いちねんかん』
『ほうこうにん』
『おにきたる』
『ともをえる』
『帰宅』
という5つの物語。詳細を説明しても作品を知らない人にはちんぷんかんぷんだろう。だけどこのシリーズのファンなら、本当に楽しめる作品ばかりだった。設定として面白かったのは、妖を長崎屋の奉公人にしたこと。
佐助と仁吉は手代としての仕事がある。だから一太郎のボディガードをずっとしていれらない。そこで一太郎が暮らしている離れに居着いている妖を奉公人として雇うことにした。屏風の付喪神は薬種問屋、貧乏神の金次は廻船問屋で奉公する。もちろんどちらの妖もレギュラーで、いつも大活躍している。
ボクが爆笑したのは貧乏神の金次の活躍。長崎屋の主人が留守で、息子が仕切っていることを知った詐欺師が廻船問屋にやってきた。大阪の大店の名前をかたって、高価な荷を横領しようとした。
ところがそれを防いだのは金次だった。彼は貧乏神だから、金持ちを貧乏にするのが仕事。それゆえお金の匂いに敏感。ところがこ大店の使いだと名乗る男からは金の匂いがしない。本当に大きな商売をしている店の人間なら、お金の匂いが全身からするらしい。
それで一太郎は騙されるのを防ぐことができた。ところがここで終わらない。その詐欺師は一太郎たちの裏をかいて、荷を横取りすることに成功する。責任を感じた金次はその盗人を捕まえようとする。だけどその男は貧乏神の天敵だった。その顛末が描かれたのが『ほうこうにん』という物語。
貧乏神は金持ちを呪って貧乏にする。そんな貧乏神の天敵とは?
それは失うものがない人間。要するに正真正銘の貧乏人。この詐欺師は本当に金に困っていて、すっからかんで失うものを何も持っていない。金も家族も友人も。それゆえ貧乏神の天敵だったこの男に、金次は本気で苦しめられるという物語。
貧乏神の天敵が貧乏だなんて、マジで笑ってしまった。いよいよ次は最新作。近いうちに読むとしよう。
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