事実はこうだ、という衝撃
ボクは書くのも読むことに関しても、短編小説がちょっと苦手。ボクは書きながら悩んで出口を探すタイプなので、どうしても長編になってしまう。それに比べて短編は日本刀のような鋭い切れ味がないと、読む人の心を動かせない。それゆえ本当に難しい。
短編を読むことに関しては、著者との波長が合わないとモヤモヤしたまま終わることが多い。連続ドラマのような短編集だと、長編の要素も感じられる。だけど各作品に関連のない短編集だと、理解が及ばないまま置いてきぼりになることが多かった。
ところが、ところが、すごい短編集を読んだ。ここ数年で、ボクが読んだ最高の短編集だと断言できる。普通っぽく始まるのに、一気にジェットコースターのような世界に取り込まれてしまう。そして決まったように、ラストで衝撃を受ける。事実はこうだった、と。それが恐ろしくもあり、感動的でもある。
短編集を読んでこれほど興奮したのは初めてだし、ボクも短編を書いてみたいと本気で刺激を受けた著作だった。
2022年 読書#15
『スモールワールズ』一穂ミチ 著という小説。直木賞だけでなく、本屋大賞の候補にもなった作品。著者は顔出しNGらしく、詳細はわからない。調べてみるとBL関連の小説が多いそうだけれど、この作品からはそんな雰囲気を感じなかった。とにかくすごい作家だと思う。
『ネオンテトラ』
『魔王の帰還』
『ピクニック』
『花うた』
『愛を適量』
『式日』
という6つの作品。昨年の4月に出版されたばかりの作品なので、ネタバレはしないでおこう。物語の設定だけ書いておく。
『ネオンテトラ』
不妊に悩むモデルの女性が主人公。夫の浮気を疑いつつも、彼女はやがて娘を手にする。その方法が衝撃!
『魔王の帰還』
嫁いだ姉が出戻りで実家に帰ってくる。主人公は弟の高校生。姉は身長が190センチ近くもあり、誰もが恐れるような風貌。名前は真央だけど『魔王』と呼ばれている。そんな彼女が夫に離婚を突きつけられた理由が衝撃!
『ピクニック』
主人公の幼い娘が急死する。単身赴任先の夫に会いに行くため、祖母に見ていてもらったときの事故だった。ところがその祖母には秘密があった。主人公の姉も幼いころに事故で亡くしている。その二人の死の真相に衝撃!
『花うた』
たった一人の家族だった兄を殺された女性が主人公。物語はその犯人との手紙のやり取りという構成になっている。最初は怒りと苦しみをぶちまけるために、主人公は刑務所宛に手紙を書いていた。やがてときは流れ、二人は夫婦となる。そして女性の晩年に、夫が結婚前に刑務所で書いた物語が明らかにされる。これは衝撃というより、感動の涙が溢れる内容だった。
『愛を適量』
離婚して独身暮らしの高校生教師が主人公。すでに50代だけれど、成人する娘がいた。ところが成人するまで養育費を送っただけで、まったく会っていなかった。ある日その娘から連絡があり、父のマンションにしばらく置いてほしいとのこと。久しぶりに対面した娘は男になっていた。娘は性同一性障害で、肉体的にも手術を受けて男性になることを願っていた。ラストに明かされた親子の過去に衝撃!
『式日』
定時制高校出身の男性が主人公。彼には同じ学校に通う後輩の友人がいた。その友人は昼間の学生で、二人の机は同じ。学校を卒業してからしばらく連絡が途絶えていたけれど、友人から急に連絡がある。父が死んだので葬式に出てほしいとのこと。誰一人出席する人がいなくて、先輩に出席してほしいとの頼みだった。初めて他人の葬式に出た主人公は、後輩の父の死の真相とその背景に衝撃を受ける。
というような内容。久しぶりに衝撃を受けた小説だった。何か読みたいと迷っている人なら、是非ともこの本の世界で衝撃を受けてほしい。
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