事実と真実の大きな壁
ネットで芸能人のスキャンダル等が記事になるけれど、ボクは基本的にそれらの内容を真に受けないようにしている。週刊誌が平気で嘘を書くことは、芸能人によるSNSの投稿で明らかになっているから。
とにかくどんな出来事であっても、当事者しか真実はわからない。だけど一般の人たちには嘘か本当なのかわからない事実が流布される。これは著名人だけのことではない。普通の人でも不確定な事実が広まって、真実が明らかになっていないことがいくつもあるだろうと思う。
事実と真実には大きな壁がある。そのことをテーマにした素晴らしい小説を読んだ
2022年 読書#19
『流浪の月』凪良ゆう 著という小説。2020年の本屋大賞を受賞したことで手にした作品。予備知識なしで読み進めたけれど、あまりに面白くてあっという間に読み切ってしまった。面白いといっても、内容は実に重い。先ほども書いたように、事実と真実の大きな壁がテーマになっているから。
これは絶対に映画化して欲しいと思って調べたら、すでに撮影が済んでいる。松坂桃李さんと広瀬すずさんの主演で、今年の5月に全国公開されるとのこと。そりゃそうだろうな。これは是非とも映像化して欲しいと感じた内容。ただし俳優さんは演技に苦労しただろうと思う。それほど複雑な役どころだから。
まだ本を読んでいない人もいるだろうし、これから映画を楽しみにしている人もいるかも。それゆえあまりネタバレはできないけれど、特殊な事情だけを書いておこう。
主人公は更紗という小学生。自由奔放な両親のもとで育ったけれど、父の死をきっかけに母は男と失踪。叔母の家に預けられたけれど、従兄弟の中学生に性的な悪戯をされていた。それゆえ叔母の家から逃げたいと思っているとき、公園で文(ふみ)という大学生と知り合う。
文はロリコン、つまり小児性愛者だと見られていて、公園に遊びにくる小学生の女の子をじっと見ている。だから友人たちから近づかないように言われていたけれど、雨の日に更紗は誘われる。そして文のマンションで暮らすことにした。それほど叔母の家に戻るのが嫌だったから。
ところが噂とちがって、文は何もしない。むしろ安全な寝床と食事を与えてくれた。文は厳しい家庭で育ったことで、ハメを外すことを知らない。でも更紗の影響によって、これまでになかった自分を発見することになる。
そんな二人の生活も2ヶ月で終わった。もちろん世間は小学生の誘拐として大騒ぎになっている。ある日、どうしても動物園でパンダを見たいと更紗の願いを叶えようと、文は思い切って彼女を動物園に連れていく。そのときに更紗は他の客にみつかり、警察がやってくる。
更紗は必死で文は何もしていないと訴えようとしたけれど、小学生の彼女にはうまく説明できない。警察や大人は文を異常者扱いすることで、最終的には少年院にいれてしまう。叔母は自分の息子が更紗に何かをしていたことを感じ、それを誤魔化すため更紗を施設に入れてしまう。
ここまでが物語の前半。やがて大人になった更紗と文が出会うことになる。世間は二人を小児性愛者の加害者と被害者としか見ない。事実はネットで流されているので、隠すことができない。文は何もしていないと更紗が説明しようとすればするほど、世間は彼女に同情して、文を変態扱いする。
更紗の真実の声がストックホルム症候群とみなされ、恐ろしいことをされたという偽の事実が世間に認知される。どうにかしてその壁を無くそうとするけれど、やればやるほど大きな壁になっていく。
そんな更紗と文との関係を描いた物語。二人がどのような関係になるか書きたいけれど、やめておこう。文の隠された真実に本気で驚いた。こんな病気があるんだね。事実を知ったことで、ますます文に好感を持った。
とにかくヒントだけ言うと、こんな素晴らしい二人はいないと思う。素敵すぎて、感動の涙が出てきた。といっても恋愛とはちがう。それがどのような愛なのかを知りたい人は、是非ともこの小説を読んで欲しい。
DVやストーカー等の問題も取り上げられていて、とても深い内容になっている。おそらく更紗が広瀬すずさんで、文を松坂桃李さんが演じるんだろうな。この二人ならピッタリかも。映画の二人にも会ってみたいと思っている。
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