恐怖の独裁者との戦い方
映画を観ていても、ついウクライナ紛争のことを考えてしまう。もしロシアがウクライナを制圧したとしても、ウクライナの人たちは抵抗を続けるだろうと見られている。ウクライナ人たちがロシア支配に抵抗する気持ちは、日本人の想像が及ばないほど強いらしい。
ただ支配下における抵抗は難しい。当然ながら独裁者は恐怖政治によって民衆を抑えつける。そして被支配国の人間でありながら、支配者にすり寄ってくる人も出てくる。同じ国の人間によって、同じ国の異端分子を密告させるのは常套手段だから。
宇宙人が登場する SF映画なのに、ロシアの占領下にあるウクライナの抵抗を描いたように感じてしまう作品を観た。
2022年 映画#35
『囚われた国家』(原題:Captive State)という2019年のアメリカ映画。
映画の冒頭は2019年のシカゴが舞台。恐ろしい姿をした宇宙人が侵略してきて、地球人を屈服させてしまう。ドラモンドという名の一家は、夫婦と二人の子供でどこかに逃げようとしていた。ところが宇宙人が現れ、両親は殺されてしまう。子供たちの命はどうにか助けられた。
それから8年後の2027年、世界は宇宙人に支配されていた。世界中の国家は支配者に従うことで、かりそめの平和が守られている。ただし全人類は体内に宇宙人が提供した発信機が埋め込められている。会話の内容から居場所まで、すべてチェックされている。もし宇宙人に反抗的な態度を見せたら、ドローンによる通報によって警察に逮捕される、
そんな反乱分子、つまりレジスタンスの取り締まりを指揮しているのがシカゴ市警のマリガンだった。このマリガンをジョン・グッドマンが演じている。2019年に両親が殺されたドラモンド家とは知り合いで、兄のレイフはテロリストとして地下に潜伏していた。弟のガブリエルも兄と行動を共にしたいけれど、マリガンに見張られていてどうしようもない状況だった。
ある日、テロの情報が流れる。副市長と宇宙人の会見が予定されていて、そこでテロが起きるというもの。マリガンはガブリエルの行動をチェックすることで、兄のレイフを見つける。ところがレジスタンスの計画は完璧で、テロが成功して会見した宇宙人は殺されてしまった。
ここからがこの映画の見どころ。マリガンは映画のなかで悪役に徹している。だけどジョン・グッドマンという俳優さんは、優しくて思いやりのある役どころが多い。それゆえ悪役なんて珍しいと思っていた。だって『アルゴ』という実話を基にした映画では、イランのアメリカ大使館員を助けるために、偽の映画を作る監督役をしたくらいだからね。
だけどジョン・グッドマンは、やはり『グッドマン』だった。彼はテロリストを一網打尽にすることで、シカゴ市警の本部長に昇進した。実は本部長にしかできないことがある。地下にある宇宙人の本部に呼びつけられ、住民の支配について直接指示を受けるというもの。
マリガンの目的は本部長になって、普通の人間が入れない宇宙人の本部に向かうことだった。つまり彼もレジスタンスのメンバーであり、仲間との計画によってテロを起こさせたり、さらに警察官として仲間の命まで奪っていた。誰もが自分の命をかけていたということ。
ラスト近くで、マリガンはガブリエルに真実を記録した映像を見せる。そこには殺されたレジスタンスの仲間や、彼の両親と兄がいた。そしてマリガンは探知不能な高性能爆弾を全身にまとって、宇宙人の本部に足をすすめる。それが先ほどの写真のシーン。
独裁者を殺したくても、近づくことさえできない。そのために相手を信用させ、最終的に自爆テロを決行する。それしか圧倒的な武力に対抗することができないから。ウクライナのことを思い、とても複雑な気持ちになった映画だった。ジョン・グッドマンはさすがの演技だったなぁ。S F映画っぽくないけれど、心に残る素晴らしい作品だった。
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