編集者さんとの絆
10年前に処女出版となった『夢で会える 体外離脱入門』という本を書くことになったのは、ボクのブログを読んでくださったハート出版の編集長さんだったFさんから連絡をいただいたから。編集会議にかけていいかと尋ねられて、光栄ですと答えた。そのときはまだ決まるとは思っていなかった。
ところが本決まりとなった連絡を受けてから大変だった。本なんて書いたことがないから、何をどうしていいのかわからない。Fさんからは14万字程度と指示されただけ。とりあえずブログの記事を中心にして、どうにかこうにか原稿を送った。
それからのゲラチェックはネットでのやり取りだった。何度かくり返したあと、最終的に校了した。書店に自分の本が棚積みされているのを見たとき、うれしいけれど何が起きているのかわからないような状態だった。すべてが初めてのことで、著者、出版社、書店等の緊密な関係を理解していない。だからいまから思えば、後悔することばかりが頭に浮かぶ。
もっとも後悔しているのは、編集を担当していただいたFさんとの緊密な人間関係が築けなかったこと。神戸と東京と離れていることもあって、あいさつに伺うタイミングを逃し、本社に訪問することさえできていなかった。Fさんはすでに定年退職されているので、いまでは繋がりが切れている。
それ以降ご縁があって、『ゼロの物語』と『永遠なる玉響』という小説をオフィス・ニグンニイバさんに出版していただいた。ただこれはセルフ編集の作品なので、小説の内容に関してはボクひとりの作業で完結している。でも書籍というものは、やはり著者と伴走者である編集さんとの共同作業であるべきだと思う。
それゆえ新しい小説を書いて投稿しているのは、編集者さんとの出会いの機会を作るため。これはまさに人間の縁と同じで、ある意味必然的な出会いしかないように思う。でも待っているだけでは縁が動かない。だから編集者さんとの絆を求めて、日々小説を書いては投稿を続けている。
そんな編集者という仕事はどのようなものか? その答えが多角的に語られている良書に出会った
2022年 読書#44
『編集とは何か。』取材・構成・文 奥野武範 という本。ボクはこのタイトルを見たとき、編集作業のノウハウ本だと思って借りた。ところがそうではなく、著名な編集者さんたちにインタビューした記事を集めたものだった。だけど本当に面白くて、読んで良かったなぁと心から思える内容だった。
具体的には14人の編集さんにインタビューされている。文芸書だけでなく、絵本や写真集、漫画や雑誌等まで多岐にわたる。これを読むだけで、単行本であれ雑誌であれ、そして漫画だって、本は著者だけで完成しないことがわかる。
原稿が印刷に回るまでには、編集者だけでなく校正と校閲者という人たちの手も入る。大勢の人がチームを組むことで、著者は自分の本を書店で見ることができる。10年前にこのことを知っていたら、ボクはFさんともっとちがう接し方ができただろうと思う。いまさらどうしようもないけれど、無知というのは本当に怖い。
まだ今年の3月に出たばかりの本なのでネタバレはしない。『本』というコンテンツが好きな人なら、文章を書いていなくても楽しめるインタビュー集だと思う。ひとつだけ面白かったエピソードを紹介しておく。編集者という人が、いかにして著者のモチベーションを上げるかという方法。
その編集者さんは企画を考えたとき、3つの案を用意する。希望するA、一般的なB、そして困難なCという案。打ち合わせのときは、とりあえずBを考えついたとして話を進めるそう。ところが作家というのはある種の才能がある人なので、B案は平凡でイマイチと答える人がほとんどらしい。
そこで話の流れとして、困難なCではなくAへと興味を持つように誘導する。そして著者がAならどうでしょうと尋ねたとき、「それは素晴らしい! 気づきませんでした!」と感動の声を添えて賛同するそう。編集者の意図どおりなんだけれど、いきなり説得してAにするように言えば作者にやる気は起きない。
だけど著者の意思として提案されたA案だと、まったくモチベーションがちがってくるそう。こうなると著者はやる気を出して執筆にかかるらしい。これは昔だけでなく、現代の作家にも使っている手法とのこと。面白いよね。
水上勉さんや野坂昭如さん等の著名な作家の裏話も最高に楽しかった。ボクも再び編集者さんと一緒に仕事ができるよう、ひたすら前に進むしかない。まずは実力がなければ振り向いてさえもらえないからね。そうすればいつか絆のある編集者さんに出会えると信じている。
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