侵略を象徴する国の言語
人間にとって言葉は文化であり、その国あるいは地方独自の言語というものがそれぞれの文化の中核を成している。同じキリル文字を使うロシア語とウクライナ語は、言語学者によると似ているけれどちがう言語だと断定できるそう。
ロシア語とウクライナ語の共通率と、英語とオランダ語の共通率はほぼ同じ。つまりウクライナ語は独立した国家の言語であり、プーチンが主張しているウクライナ人とロシア人の「歴史的一体性」は根拠が薄いということ。もしウクライナがロシアに占領されたなら、公用語はロシア語になってしまうはず。それが侵略というもの。
この事実は南米を見るとわかりやすい。南米にはマヤやインカという先住民族が存在していた。独自の言語と宗教を有した文化的な国家だった。ところがスペインやポルトガルがキリスト教の布教を名目にして侵略したことで、公用語はスペイン語やポルトガル語になってしまった。グローバルな現代社会においてはそのほうが有利かもしれないけれど、歴史的背景を考えたらそうも言えない。大勢の人が無惨に殺された結果だから。
支配者の入れ替わりが激しいヨーロッパでも、地方独自の言語が淘汰されつつある。だから従来の言語を守ろうとして、その地域に暮らす人たちは子供たちに先祖の言葉を懸命になって教えている。最初に書いたように、言葉は文化だから。
同じような現象が、現在の台湾でも起きているとのこと。
現在の台湾の公用語は中国語。それは蒋介石の率いる国民党が、共産党との戦いに敗れて1945年に台湾入りしたから。それ以来、台湾の言葉は中国語になっているそう。それ以前から住んでいる人にすれば、まるで侵略されたのと同じような気持ちだったはず。
そして他国の例と同じく、以前から使われていた台湾語というものがあった。リンク先に記事によると、『台湾語とは通常は閩南(びんなん)語を指し、台湾の公用語である中国語(華語、国語と呼ばれる)とは異なる。国民党が1945年に台湾入りする前、現在の福建省から台湾南部に移住してきた人々が話していた言語だ』とのこと。
この台湾語が最近になって流行しているそう。台湾で人気のロックバンドが台湾語の曲をリリースして、YouTubeでの再生回数が1億回を超えているらしい。若い人を中心にして、このままでは消えてしまうかもしれない台湾語を残していこうという動きが起きている。
若い世代にすれば、祖父母が話していた言葉。それをあえて使うというところに、台湾のおかれている現状が現れているような気がする。台湾語を使う人の主張から、その想いが伝わってくる。
「中国と同じ言語を使いたくない」
ウクライナの状況を見聞きしていると、台湾の若者たちには人ごとだと思えないのだろう。「このままでは台湾語が失われてしまう」という不安は、「このままでは中国に支配されてしまう」という恐怖から発生しているはず。
文化を守るということは、その地方の言語を守ることでもある。言い換えれば他国の侵略に備えるということ。台湾の若い人たちが台湾語を守ろうとしているのは、自分たちの国を守ろうとしているんだと思う。
かつて日本が台湾を統治していたとき、台湾の人たちは日本語を話した。つまり日本だって他国の文化を押しのけたことがあるということ。だからこそ同じことが起きないよう。台湾の実情に対して日本政府や日本人は真摯に向き合う必要があると思う。
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