閉塞から抜け出すパワー
人間が暮らす環境というものは、その人の人生を大きく左右する。自分の家族、そしてその街で暮らす人たちを見ることで、自分の人生に制限を設けてしまいがち。もちろん子供のころは、そんな制限に影響されず無限大の可能性を夢見る。
だけど両親や社会によって、そんな想いは潰されてしまうことが多い。そして気がつけば周囲の人たちと同じように、「人生なんてこんなものだ」と結論づけてしまう。そこから抜け出すには才能だけでなく、大気圏を突破するロケットのようなパワーが必要になる。
そのパワーとは? この問いの答えを感動を通じて教えてもらえる映画を観た。
2022年 映画#65
『リトル・ダンサー』(原題:Billy Elliot)という2008年のイギリス映画。少し前に『エール!』という素敵なフランス映画を観た。聴覚障害者の家族で一人だけ耳の聞こえる少女が、歌の才能を認められてパリの音楽学校に合格するまでを描いた物語。
この作品もよく似ていて、その作品のバレエ編という内容。舞台は1984年のイギリス北部にある炭鉱町。主人公のビリーは11歳。父と兄は炭鉱で働いていたけれど、労働組合が求めるストに応じて抗議活動を続けていた。だけどサッチャー政権の強硬な組合対策によって劣勢となっていた。
貧しい一家で、認知症の祖母の世話もある。そんな合間を縫って、ビリーはボクシングを習っていた。そんなある日、組合活動の影響でバレエ教室が変更されて、ボクシングと同じ場所を使うことになった。地元の少女ばかりを集めたバレエ教室。
ビリーは少女たちの練習する姿を見て、バレエに興味を持つ。だけどその当時の炭鉱町では、男子がバレエをやるなんて考えられない。父も兄も猛反対。だけどビリーは内緒で練習を重ね、その才能をコーチに認められる。そしてロンドンのロイヤル・バレエ学校の受験を進められる。
父も兄もバレエを続けることを認めない。女のやることだと言ってバレエ学校の受験なんて許可してくれない。ビリーは兄と同じように学校を卒業したら斜陽産業である炭鉱で働くしかなかった。
ところがクリスマスの夜、ゲイの友人とダンスを練習していたビリーが父に見つかってしまう。ヤケクソになったビリーは、父の前で彼の持っているすべての技術を披露した。父は絶句していたが、翌日に異変が起きた。
ストライキ中なのに、父はストライキ破りで炭鉱に向かった。なぜならビリーにロンドンへ行かせてやりたいから。息子の才能に気づき、金を稼いでこの町から出させてやりたい。兄は抵抗していたけれど、やがて弟を快く送り出す。そして街の炭坑夫たちも、ビリーのために資金をカンパしてくれた。
この町から飛び出して夢を叶えてほしい。街のみんなができなかったその想いを、誰もがビリーに託したのだろう。これこそが大気圏を突破するパワーだった。そして見事ビリーはオーディションに合格する。
そしてラストシーンで25歳になったビリーが登場する。ロイヤル・バレエ団のスターとして舞台に立っていた。もちろんその客席には父と兄、そして恋人を伴ったゲイの親友の姿もあった。ありがちなサクセスストーリーなんたけれど、ビリーと父の関係が本当に感動的。
ビリーを演じたジェイミー・ベルはボクの好きなイギリス俳優なんだけれど、これがデビュー作なんだね。大人になった姿しか知らなかったのでびっくり。そしてバレエのコーチを演じたジュリー・ウォルターズはさすがの名演技。『ハリーポッター』のロンの母親役も好きだったけれどね。
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