自分の才能を見誤った悪例
なんだか久しぶりに、最初から最後まで登場人物にイライラする映画を観た。最悪なのは主人公の夫なんだけれど、その妻にもイライラした。映画としてはよくできた作品で、スキャンダラスな実話が見事に再現されていた。
2022年 映画#110
『ビッグ・アイズ』(原題: Big Eyes)という2014年のアメリカ映画。実在の画家であるマーガレット・キーンの伝記映画。マーガレットを演じているのは、写真のエイミー・アダムス。ボクがイライラしたのは、彼女が当時の出来事を完璧に演じたからだと思う。やっぱり素敵な俳優さんだね。
マーガレットは最初の結婚生活に失敗して、幼い娘と一緒に西海岸へ逃げる。彼女は絵を描くことで生計を立てたいと思っていた。だけど時代は1950年代で、女性画家が独り立ちするには厳しい。そんなとき、マーガレットはウォルター・キーンという画家と出会う。それで再婚してキーンという姓になった。
ウォルターも画家として生計を立てようとして、自分と妻の絵を画廊に売り込む。あるいはバーの一角を借りて、そこで絵を展示販売することまでやった。やがてある絵が評判になって売れる。それは妻の書いた大きな目の人物画だった。
ここからがのウォルターがすごい、彼には人を説得する才能と天性の社交性があり、たちまちマーガレットの絵は『ビック・アイズ』という全米を巻き込んだブームとなる。絵に詳しい人なら知っているかもしれない。
ただし問題があった。『ビック・アイズ』の絵にはキーンと署名されているだけ。そこでウォルターは、妻が描いた絵を自分が描いたことにした。マーガレットには嘘を並べていい含め、生活のためにはこの方がいい。女性の絵は売れない。そう言い張った。
ウォルターは画家としての才能はないけれど、プロモーション能力は秀逸。だから正直に妻の作品として売り込めば良かったのに、名声まで求めてしまった。自分の才能を見誤った悪例だと思う。
やがて一家は豪邸が立つほどの資産家となり、ウォルターは金銭だけでなく有名画家としての名声も得る。マーガレットは娘にも自分が絵を描いていることを隠し、夫のためにひたすら絵を描き続けた。この段階でクソ野郎のウォルターにかなりイライラする。
そしてそれを許しているマーガレットにもイライラした。ただ時代的に、女性が表に出ることが難しかったという事実はある。結局は共犯となってしまい、やがてウォルターはマーガレットを脅すようになる。もし世間にバラせば殺してやると。
そんな結婚がうまくいくはずがない。ウォルターのDVに耐えきれず、マーガレットは娘と二人で西海岸からハワイへ逃げる。そしてようやく真実を明かし、ハワイの法廷に名誉毀損で夫を訴えた。ここからの裁判シーンはなかなかの見もの。
最終的に判事が命じたのは、1時間以内に法廷で『ビック・アイズ』の絵を描くというもの。ウォルターは画家を志したものの、まったく才能がなかった。マーガレットに彼の絵だと言っていた作品も、他人の絵画の署名を改竄したものだった。当然ながら結果は見えている。
勝訴したのはマーガレット。それでようやく才能ある画家として全米に認められる。それでもウォルターは2000年に亡くなるまで『ビック・アイズ』は自分の作品だと言い張っていたらしいけれどwww
マーガレットは94歳まで長生きされた。調べてみると亡くなったのは今年の6月26日だった。つい1ヶ月ほど前のこと。だからこの映画の公開時にはカメオ出演されていたそう。気づかなかったけれど、エイミー・アダムズとのツーショット写真が映画のエンドロールで公開されている。それがこの写真。
年齢はちがうけれど、どことなく雰囲気が似ている。いい写真だね。イライラしたのは、主演の二人の演技が素晴らしいから。ティム・バートンが監督だと信じられないほど、真面目に作られた作品だと思う。
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