女優が見せる表と裏の顔
俳優たちは演技するのが仕事。だからボクたち一般人は、彼らの俳優としての表の顔しか知らない。
だけど俳優も人間であり、当然ながら私生活がある。そんな俳優の表と裏の顔が効果的に描かれた素敵な映画を観た。フィクションだとわかって観ているけれど、ドキュメントを見ているようなリアリティを感じさせる作品だった。
2022年 映画#123
『アクトレス~女たちの舞台~』(原題:Sils Maria)という2014年のフランス・スイス・ドイツの合作映画。ベテランの年齢となった女優と、その秘書とのやりとりが物語の中心。二人の会話が絶妙で、2時間という時間を感じさせない素晴らしい作品だった。
主人公のマリアを演じているのはジュリエット・ピノシュというフランスの名女優。ボクは『ショコラ』という作品で主演を演じた彼女の印象が強く残っている。素敵な女優さんだなぁと思っていた。
そして秘書のヴァレンティンを演じているのがクリステン・スチュワート。ボクは彼女が好きでいくつも出演作を観ているけれど、もしかしたらこの映画は彼女の代表作と言っていいほど素晴らしい演技だった。『トワイライト』の彼女がかすんでしまうほど。
映画の冒頭からヴァレンティンが有能な秘書だとわかる。複数の電話を取りながら、マリアの意向を理解して交渉を進めていく。そしてマリアが表舞台に立つときはさりげなくバックアップしている。
ただヴァレンティンはマリアの現状に不満を持っていた。彼女の代表作である『マローヤのヘビ』という作品へのこだわりが強い。18歳で演じたその役をいまだにどこか引きずっている。ヴァレンティンとしてはそこからマリアに脱皮してほしい。成長しようとないマリアは私生活にも影響が出ていて、離婚調停でトラブルを抱えている。
そんなとき『マローヤのヘビ』の舞台が再演されることになった。マリアに届いたオファーは、彼女が以前やっていた主役の相手となる人物。年上の同性愛者で、主人公に追い詰めらて自殺してしまうという役。ヴァレンティンは彼女が成長するいいチャンスだと思い、オファーを受けるように勧める。
結果としてその役を受けたマリア。二人は役づくりのためにスイスへ向かう。セリフの読み合わせ相手になるヴァレンティンの演技がすごい。女優のように(クリステンは女優なんだけれど)演技に入りこみ、マリアと対等に芝居をしているように見える。
だけどマリアは自分の役にケチをつけるばかりで、愚痴ばかりこぼしている。役の解釈に対してヴァレンティンが進言しても、耳を傾けようとしない。結果として絶望したヴァレンティンはマリアの元を離れてしまう。
それでも女優を続けなくてはいけないマリア。新しい秘書はそつなく仕事をこなしてくれるけれど、ヴァレンティンのような親密さが二人にはない。そして若い主演俳優には年寄り扱いされてしまう。それでも女優としての表の顔を必死で守ろうとするマリア。だけど彼女の裏の顔を支えてくれたヴァレンティはそこにいない。とても切ないエンディンだったなぁ。
とにかく二人の演技を堪能できる良作だった。マリアの表と裏の顔が切り替わる瞬間に、プロとしての矜持を感じる作品だった。
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