事実はドラマにならない?
今日の9月15日は関ヶ原の合戦が行われたらしい。道理で関ヶ原の文字をネットで何度も見かけたはず。天下分け目の合戦というだけあって、兵の勢力に関しては石田三成率いる西軍と、徳川家康についた東軍は互角だった。いや、どちらかといえば西軍有利だった。
ところが蓋を開けたら短い時間で東軍の勝利。西軍の兵は戦う気力のない武将が多く、そのうえ土壇場で裏切り者まで出た。石田三成に人望がなかったといえばそれまでなんだけれど、戦う前から勝負はついていたのかもしれない。
だけど石田三成を主人公にしたドラマだとしたら、彼の人望のなさを強調すればドラマにならない。それゆえ多少は事実に蓋をして、ドラマとして盛り上がるような脚本が書かれるだろう。歴史には変えられない出来事はあるけれど、無視できることもあるからね。
となると現在放送中の大河ドラマはどうなんだろう? 主人公は小栗旬さん演じる北条義時。ドラマは佳境に向かいつつあり、最大のクライマックスである承久の乱が近づいてきた。ということでこんな本を読んでみた。
2022年 読書#87
『頼朝と義時 武家政権の誕生』呉座勇一 著という本。昨年の暮れに出された本なので、大河ドラマを意識して執筆されたものだと思う。と言ってもかなり本格的な考察本となっていて、歴史好きのボクには最初から最後まで面白く読むことができた。
ほぼ大河ドラマと同じ時勢を扱っているので、この本を読めばいまからドラマを観てもついていけるはず。ただし、内容は微妙にちがってくる。この本は、史料に基づいた事実を求めたものだから。
この時代の史料となるのは、ボクがいま少しずつ読んでいる『吾妻鏡』という鎌倉幕府が残した記録書。でもこれは鎌倉幕府を実質的に支配している北条氏の正当性を主張したもの。だから都合の悪いことは粉飾されている。
これ以外の当時の史料となるのは天台宗僧侶の慈円が記した『愚管抄』だろう。そして鎌倉時代の公家である九条兼実の日記である『玉葉』という作品。これら3つを比較することで、より事実に迫ることができるはず。
ということでこの本の著者は、当然ながらその手法を使っている。とするとドラマとちがって見えてくることがある。
それは北条義時の陰謀者としての裏の顔。
もちろんドラマでもその姿は描かれている。物語のスタート当時の義時は純粋な部分が強調されていた。ところが頼朝と挙兵して坂東武者たちの勢力争いに巻き込まれ、北条氏を守るためにキャラを大きく変えてくる。
いまの義時は、苦しみながらも陰謀に手を染めていくという雰囲気。息子の泰時に罵倒されながらも、鎌倉の平和を維持するために奮闘している。
ところがこの本によると、義時はドラマよりもっと腹黒かったのでは、と感じてしまった。頼朝の遺志をついで武家政権の樹立を目指すという大義名分はある。だけどそれ以上に、利己的な目的のために陰謀を多用していたように思えた。
比企氏の滅亡だけでなく、二代将軍頼家の死にも積極的に関与した可能性がある。それどころか三代将軍の実朝暗殺の黒幕では、という憶測もあった。頼朝挙兵から友情を築いてきた畠山重忠や和田義盛の滅亡に関しても、義時のどこか暗い陰謀めいたものを感じる。
ただこの時代はそれが普通だった。承久の乱で後鳥羽上皇が鎌倉に攻撃を仕掛けたとき、義時の従兄弟で親友でもある三浦義村は、息子を敵に回してまで義時の味方についている。つまりこの時代は勝てば官軍だということ。余談だけれど、このシーンを演じる義村役の山本耕史さんの演技を楽しみにしている。
この本を読み終えて、あとがきに驚くことが書かれてあった。著者は『鎌倉殿の13人』の時代考証を担当していたそう。ところが『何か』があって、降板されることになった。そのことについて謝罪が最後に書かれていた。
これはボクの勝手な想像だけれど、真実に固執されたのではないだろうか? つまり義時の負の面を事実だとしてプッシュすると、ドラマとしては成り立たなくなってくる。だって主人公だからね。もしかしたらそうした点でうまくいかなかったかなぁ、と勝手に妄想していた。
ただ歴史書としては秀逸なので、この時代のことをドラマより深く知りたい人にはおすすめの本だと思う。
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