人間の視点は意外に狭い
小説を書くうえでもっとも大切なのは、誰の視点で物語が動いているかということ。一人称なら常に『私』や『僕』の視点だし、三人称であっても誰の視点で物語を動かしているかを意識しなければいけない。
これは映画やドラマの映像でも同じ。カメラは客観的な映像を撮影しているが、監督の演出としては特定の誰かの視点を意図して編集されている。だから小説でも映画でも物語のすべてを見ているようで、実は語り手の限られた視点でしかその世界を知ることはできない。
つまり人間というものは、個人のバイアスによって物事を捉えているということ。同じものを見ているようで、実際に知覚しているものは人によってちがう。当然ながら感じることにも差が出てくるので、そこに視点を扱う面白さがある。
そうした視点のちがいを物語に活かした代表作が黒澤明監督の『羅城門』という作品。もし一度も観たことがない人がいたら、ぜひともトライして欲しい。複数の人間の視点を感じることで、物語があっと驚くものに変化するのを実感できるはず。
まさに外国版『羅城門』という映画を観た。これも同じく、複数の視点が積み上がっていくことで物語の多様性を実感できる秀作だった。
2022年 映画#146
『バンテージ・ポイント』(原題:Vantage Point)という2008年のアメリカ映画。どのような視点があるのか紹介する前に、この映画で起きる重要な出来事を語っておこう。
テロ撲滅の国際サミットがスペインで開催される。アメリカ大統領が諸国と新しい条約を調印することになっていて、マヨール広場の前で演説をすることになっていた。午後0時23分、大統領が演壇に立った直後銃撃されて倒れる。
会場は大騒ぎとなり、近くで爆発音が聞こえた。さらに大統領の立っていた演壇も爆発して、大勢の人が死傷する。映画の冒頭でいきなりこの映像が流れて、かなり驚かされる。この最後の爆発までが複数の視点で語られていく。
(1)ブルックスというテレビ局のプロデューサーが流す映像。シガニー・ウィバーが演じている。
(2)大統領のシークレット・サービスであるバーンズの視点。この物語の主人公でデニス・クエイドが演じている。
(3)地元の刑事であるエンリケの視点。
(4)旅行者であるルイスの視点。フォレスト・ウィテカーが演じている。
(5)大統領であるアシュトンの視点。ウィリアム・ハートが演じている
(6)そしてテロリストたちの視点。
それぞれの視点が紹介されるたびに、出来事の真相に近づいていく。ボクが驚いたのは銃撃された大統領が影武者だったこと。これも視点が大統領になって初めてわかることになる。
最終的にはテロの真犯人が明らかになり、テロリストは全員死んで大統領は無事に救出される。複数の視点で爆発までの経緯が明らかにされ、大統領救出のシーンに向けてすべての視点が一つに収束していく。
重要な鍵を握っていたのは旅行者ルイスの視点。彼はまず爆発までの状況を映像に撮っていた。さらにある少女と知り合ったことで、爆弾テロに巻き込まれた彼女を助ける。そしてその少女を救うことが、偶然的に大統領を救出することにつながっていく。なかなか良くできた物語だった
もしこの世に神が存在するとしたら、この映画のように全ての人間の視点を知覚しているのかも。そう思って観ると不思議な気持ちになる作品だった。
ブログの更新はFacebookページとTwitterで告知しています。フォローしていただけるとうれしいです。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。
コメント (0件)
現在、この記事へのトラックバックは受け付けていません。
コメントする