時間旅行者に与えられた恩恵
人間は死と同時に時間の世界から逸脱する。40年の人生を生きた人は、それまでの40年間に関して、記憶を通じて出来事を想起することができる。
だけど亡くなった日以降の現実世界を体験することはできない。だから自分の死後に家族がどのような人生を歩むのかを知ることは不可能。ややこしいので、死後世界のことは考えないでねwww
だけどもしタイムトラベラーが存在したら、自分の死後の家族や友人たちの生活を知ることができる。自分が死ぬ前に、未来の世界へ行けば体験として記憶に残すことが可能だから。そんな場面をラストシーンに盛り込んだ小説を読んだ。
2022年 読書#92
『きみがぼくを見つけた日』下巻 オードリー・ニッフェネガー著という小説。上巻の感想については『運命論に支配された時間旅行』という記事に書いているので参照を。
物語の主人公は二人。予期しないときにタイムトラベルをしてしまうヘンリーという男性。そして6歳のころから大人のヘンリーに会い、やがて成人してから若いヘンリーに出会ったクレアという女性。そのタイムトラベルにどんなルールがあるかは、上巻の感想に書いているので参照を。
上巻では二人が結婚したところで終わった。幸せの絶頂のように思うけれど、二人には大きな問題があった。それが下巻では時間を割いて書かれている。これは映画でもハラハラしながら観た設定だった。
ヘンリーのタイムトラベルは脳機能によるもの。つまり遺伝する可能性があった。二人は子供を作るけれど、なんとクレアは6回も流産してしまう。やがてその理由がわかる。お腹の子供が成長してくると、クレアの子宮を離れてタイムトラベルしてしまうから。
この解決策がヘンリーの主治医によって提案される。ところがこれ以上妻の肉体に負担をかけたくないヘンリーは、子供ができないようにパイプカットをしようとする。映画ではクレアに相談せずにヘンリーが手術を受けてしまい、二人は大喧嘩になる。
原作ではパイプカットを受ける直前に、ヘンリーはクレアに告白している。だけどクレアは反対しない。なぜなら数年先のヘンリーが現れて、二人に娘が授かると明言したから。ここでタイムトラベルの利点が生かされる。
クレアに7回目の妊娠をさせたのは、まだパイプカットしていないヘンリー。映画とは状況が異なるけれど結果は同じ。そしてアルバという娘をようやく授かる。そしてこのアルバもやはりタイムトラベラーだった。
面白い場面は、まだ3歳くらいのアルバが見知らぬ少女と遊んでいる。クレアが不思議に思っていると、ヘンリーが説明した。アルバと遊んでいたのは、数年先のアルバ自身だった。同じ時空に存在できるのはこの作品の面白いところ。ちなみにクレアがアルバを妊娠したときの性行為は、となりでぐっすり眠り込んでいるパイプカット済みのヘンリーがいたという不思議な状況だった。
やっと娘と出会えたけれど、ヘンリーには時間がなかった。43歳の大晦日に彼は死んでしまう。タイムトラベルで特定の事実を知ったとしても、出来事を変えることは無理。自由意志があるようで、実は運命論に支配されているという、ボクの大好きな世界観。
映画でもそうだったけれど、ヘンリーは最後の大晦日に友人や親戚を集める。皆に別れを言いたかったから。ヘンリーを殺してしまうのは、実はクレアの父と兄という悲劇なんだけれど。二人は狩猟が趣味で、タイムトラベルしてしまったヘンリーを間違って銃で撃ってしまう。まだクレアが少女時代のこと。
映画では死ぬ前のヘンリーが、クレアとアルバに会いにくるシーンで終わる。これはこれで感動で、ボクは号泣した。だけど原作のラストはもっと素敵だった。
82歳になったクレアに、42歳のヘンリーが会いにくる。ヘンリーは亡くなる前にクレアに手紙を残していた。いつとは言えないけれど、二人が再会する場所の描写がくわしく書かれていた。まさにその同じ場所で82歳のクレアが待っていた。
小説だと分かっていても、二人が会えてよかったと本気で思った。そして涙が止まらなかった。映画も素敵だったけれど、圧倒的に原作がおすすめ。時間旅行ものが好きな人は、まずは映画がいいかな。そうすればきっと原作が読みたくなると思う。本当に素敵な物語だった。
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