犯罪者の育て方マニュアル
格差社会が問題視されて久しい。特に経済的な格差は深刻で、貧すれば鈍するという言葉どおり、金銭的な余裕がなくなると心までが貧しくなってしまう。そして犯罪の温床となることが多い。
日本でさえそうした格差があるくらいだから、世界的な視野で見れば目を覆うような状況は数えきれないだろう。そして貧困に耐えきれず、犯罪者へと落ちていく若者たちのことを思うと胸が痛くなる。やはり環境が人を作ってしまうのだろうか?
そんな現状をわざわざ映画で観せられると、はっきり言って不快感しか抱かなかった。映画を観終わって、久しぶりにゲンナリしたという作品。
2022年 映画#157
『チャッピー』(原題: CHAPPiE)という2015年のアメリカ映画。監督が『第9地区』のニール・ブロムカンプなので、物語の舞台はやはり南アフリカになっている。ロボットを使ったSF映画だと思って観たけれど、先ほど書いたようにどことなく楽しめない内容だった。
ヨハネスブルグではロボット警察が採用されていて、犯罪が大きく減少していた。ディオンという男性がシステムの開発者で、計画はうまく進み犯罪者たちは活動を縮小するしかない状態だった。
ニンジャという名の男性は、ヨーランディーという女性、そしてアメリカという男性とチームを組んで犯罪を行っていた。だけど麻薬の運搬中にロボット警察に邪魔をされて、商品をダメにしてしまう。ギャングのボスに弁償しないと3人は殺されてしまう。
そこでニンジャが考えたのはロボット警察の開発者を誘拐して、ロボットたちを停止させるという作戦。そしてディオンの誘拐に成功するものの、彼のトラックには廃棄処分予定のロボットが乗せられていた。
ディオンは新しいAIの開発に成功していた。人間のように芸術を理解できるピュアな心を持っている。ところがロボット警察を現状のまま進めたい会社は却下。そこで廃棄処分になるロボットをこっそり持ち出し、新しいAIをインストールしようとしていた。
ニンジャたちは方針を変更。ディオンを脅してロボットを起動させ、現金輸送車を奪うために利用することにした。ところがAIには教育が必要。インストールされたばかりのロボットは人間の子供と同じ。だから言葉から教える必要があった。そのロボットはヨーランディーによってチャッピーと名付けられる。
ニンジャたちに脅されながらもチャッピーを教育しようとするディオン。だけどニンジャはチャッピーを強盗として利用したいので、銃の扱い方や喧嘩の方法を教えようとする。母親代わりのヨーランディーは母性本能を刺激されてチャッピーを守ろうとするけれど、所詮は犯罪者集団。チャッピーは洗脳されたようになって犯罪への道へと進んでしまう。
そこから映画らしく物語はそれなりに進む。今回は悪役のヒュー・ジャックマン演じるヴィンセントが開発したロボットとの対決という図式。結果として命を落としたディオンとヨーランディーを復活させるため、チャッピーはある技術を応用するという結末。
この映画の何が不快かといえば、チャッピーの周囲の人間がどうしようもない連中ばかりだから。ニンジャやヨーランディーは最後に愛情深いところを見せるけれど、所詮は麻薬の密売人。ディオンにしても、自分の研究のために廃棄処分のロボットを盗み出している。
あぁこの人にチャッピーは教えてもらえばいいのい、という人間が一人も登場しない。チャッピーが素直ないい子だけに悲しい。どいつもこいつもクソ人間ばかりで、まったく感情移入できないまま終わってしまった。それだけにこの物語には救いがない。人類に対する監督の絶望のようなものを感じてしまう作品だった。
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