リアル過ぎて笑えないコメディ
風刺、あるいはブラックコメディは欧米の人たちの得意分野。日本人がやると、どうもイマイチということが多い。欧米人のユーモアセンスは年季が入っているからだろう。
ところがそんな風刺的なコメディ映画を観たのに、あまりにリアル過ぎて笑うに笑えなかった。
2022年 映画#158
『スイング・ステート』(原題:Irresistible)という2020年のアメリカ映画。スティーブ・カレル主演というだけで、かなり期待できるコメディ映画。彼の場合はコメディだけでなくシリアスな役もできる。期待どおりの演技だったけれど、あまりに内容がリアル過ぎた。
スティーブ・カレル演じるゲイリーは民主党の選挙参謀。2016年の大統領選挙ではヒラリー・クリントン候補をサポートして戦ったが、選挙前の予想に反してトランプ陣営の共和党に負けた。その共和党の選挙参謀はフェイスで、ローズ・バーンが演じている。この二人の組み合わせだけで楽しめるのは確実。
ゲイリーは民主党が弱い南部の地域で支持を集める必要を感じた。そこで目をつけたのがスイング・ステートのウィスコンシン州。スイング・ステートというのは、選挙によって民主党と共和党の支持がちがってくる微妙な地域。
ウィスコンシン州のディアラーケンという小さな街では、ちょっとした問題が起きていた。基地が撤退したことで街の経済が緊急事態。市長のブラウンは集会で厳しい政策を訴える。ところがその政策に意義を申し立てた男性がいた。
退役軍人のジャックで、市民の集会で市長相手に堂々と意見を述べていた。その動画をYouTubeで見たゲイリーは、彼が民主党の好感度アップに使えると感じた。そこで直接交渉することで、ジャックに市長選出馬を決意させる。ジャックの条件はゲイリーが選挙参謀として動いてくれること。
その事実がニュースとなり、共和党も黙っていない。現職市長を応援するために、ゲイリーのライバルであるフェイスが乗り込んできた。大統領選挙のライバル対決ということでアメリカのメディアは注目。どちらの陣営もスポンサーを集め、大量の資金がディアラーケンの街に投入されることになった。
最新技術を駆使した選挙戦。最初は共和党の支持者が多いことでジャックは劣勢だった。だけど有力な資産家から援助を受けたことで、ゲイリーは多額の資金を投下する。そして徐々に選挙情勢は変化して、ほぼ五角の戦いとなってきた。
投票前日にある情報を得たゲイリーは、最後の攻撃に出る。現市長のスキャンダルだった。それで勝利を確信したが、投票締め切りになって想定外のことが起きた。これはさすがにビックリ!
投票結果は同数で引き分け。だけど投票数は2票だけ。現職市長とジャックの二人だけしか投票していない。他の住民は全員が棄権した。そして民主党と共和党が投入した多額の選挙資金は、街の財産として法律的に回収できない事態となっていた。
ネタを明かすと、財政難になったディアラーケン市民たちの計画だった。市長とジャックが相談することで、争っている演技をわざとネットに流した。そしてゲイリーが食らいついてくるのを待っていた。その計画を練ったのが、ジャックの娘だった。
騙されていたことを知ったゲイリーは、ジャックの娘に詰め寄る。だけど娘のダイアナが、「あなたたちは選挙になったらいいことばかりを言って、選挙が終わればこんな小さな街のことなんか見向きもしない。どれだけ困っていても知らん顔でしょう」と答えた。
最終的に再選挙で市長に選ばれたのはジャックの娘のダイアナ。ダイアナを演じたマッケンジー・ディヴィスが最高の演技だった。コメディなんだけれど、選挙制度の不備、民主党と共和党の住民を無視した選挙対策、そして面白おかしく煽るだけのマスコミを、これでもかというほど皮肉っている。
コメディ映画としては失敗かもしれないけれど、民主主義が抱える問題について訴えてくるものを感じる作品だった。
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