同世代の父に会う時間旅行
自分の親との年齢差が埋まることはない。親が30歳のときに生まれた場合、子供が30歳になれば親は還暦を迎えている。当たり前のことなんだけれど、その年齢差ゆえに互いが理解できないことがあるかもしれない。
自分と同じ年齢のとき、親はどのようなことを思い、どのように生きようとしていたのか? もしそのことを知ると、親に対する態度が変わるかもしれない。うまくいっていない親子関係でも、同世代だったときの親の気持ちを知ることで何かが変わるかもしれない。もちろん逆の場合もあるだろうけれど。
もし若いころの父に会ったとしたら? そんなテーマを描いた映画を観た。
2022年 映画#160
『地下鉄に乗って」という2006年の日本映画。浅田次郎さんの小説を映画化した作品で、まだ若い堤真一さんが主演している。
堤真一さん演じる長谷部は衣料品会社の営業をしている。妻子はあるが、同じ会社のみち子と不倫関係にあった。彼の父親は世界的に有名な小沼グループの創立者で小沼佐吉。長谷部は3人兄弟の次男だったけれど、父親と確執を抱えたことで離婚した母親の籍に入った。
そんなある日、地下鉄に乗っていた長谷部は昭和39年の世界にタイムトリップしてしまう。まだ少年時代の長谷部がいる時代で、長男が事故死する直前だった。長谷部が父との確執を抱えたのは、兄の事故死と母親への暴力が原因。
必死になって兄の事故死を防ごうとしたが失敗。さらに長谷部は次々とタイムトリップを繰り返す。時代は様々だけれど、そこには必ずと言っていいほど父の佐吉がいた。戦争に出征する前の父、戦後の闇市で生きる父、そして必死になって新しい商売を始めよとする父。
そんな父と会うたびに、確執を生じていた父への理解が深まっていくという物語。ただ何故か愛人のみち子もタイムトリップしてしまう。この作品でもっとも驚いたのがその理由。彼女も小沼佐吉に関係があったから。つまり佐吉が二人をいろんな時代に引き寄せているかのような印象。
長谷部は同世代の父と知り合うことで、愛情深い彼の本質を理解する。長男の死を誰よりも悲しみ、自分を責めていたのは父だった。さらに長男は父の子供でなかったこともわかる。つまり本当の長男は長谷部だった。
そしてもっともショッキングな出来事が明らかになる。なんとみち子の父親も佐吉だった。つまり長谷部とみち子は腹違いの兄妹だった。そのことを知ったみち子は愛する長谷部と永遠に結ばれないと知り、とんでもないことを決行する。自分を身籠もっている母を流産させた。つまり生まれる前の自分を殺してしまう。
堤真一さんと佐吉を演じた大沢たかおさんの素晴らしい演技に、何度も泣かされてしまった。そしてみち子を演じた岡本綾さんの演技に感動した。あれほど難しい女性の役を、彼女は見事に演じ切っていた。いまは女優をされていないようで、とても残念に思った。
映画を観ているだけでは、ツッコミどころの多い物語なのは事実。タイムトラベルする事情を、もう少し掘り下げて欲しいと感じた。あまりに都合良すぎるように感じてしまうから。ただそれ以上に出演者の演技が感動を誘うので、最後まで気にすることなく鑑賞できた。
こうなると原作の小説が気になってきた。もしかしたら映画でわからなかったことが書かれているかもしれない。近いうちに読んでみようと思う。
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