こうした作品を楽しめる心
小説や映画を楽しむために必要なのは、作品との距離感だと思う。エンタメ作品は登場人物に感情移入することで、自分には起こり得ないことを疑似体験することができる。あるいは同じような経験をしていても、物語に同調することで新たな洞察を得られたり癒されることがある。
だけど感情移入が過ぎると、現実との区別ができなくなる人がいる。スターダストレビューというバンドの根本要さんが、以前にこうした事例について語っておられた。ある曲の歌詞についての感想で、「要さんがこんなひどい人だとは思いませんでした」というもの。
小説や映画、あるいは歌詞というのは基本的にフィクション。つまり嘘だということ。もちろん自分の経験に近いことを創作する人もいるだろうけれど、それではプロとしてやっていけない。すぐにネタが尽きてしまうから。だから必死に想像して、未知の世界を構築しようとしている。
だから映画を観るときは、心のどこかでこれは嘘だということを認識しているべき。ドキュメントではないので、自分と作品の距離感を意識しないと、物語の主人公と俳優さんを同一視してしまう。
そんな作品との距離感が必要な映画を観た。この作品を心から楽しめる人は、フィクションとの適切な距離感が維持できている人だと思う。もちろんボクは最高に楽しんだ。
2022年 映画#167
『セブン・サイコパス』(原題:Seven Psychopaths)という2012年のイギリス映画。イギリスお得意のブラックコメディ作品。だけどかなりアクが強く、映像もエグい。だから作品との適切な距離感が保てない人は、楽しめない映画かもしれない。
何よりもキャストが豪華。コリン・ファレル、サム・ロックウェル、ウディ・ハレルソン、クリストファー・ウォーケン、そして綺麗どころではオルガ・キュリレンコも出演している。
コリン・ファレル演じるマーティはハリウッドの脚本家。『セブン・サイコパス』という映画のタイトルは考えたけれど、一向に物語が浮かんでこない。そこでサム・ロックウェル演じるビリーが、マーティを助けようとして新聞広告を出す。「サイコパス募集」というもの。これだけで笑える。
ただビリーはヤバい商売に手を出していて、仕事仲間のハンスもマフィアがらみの逆襲にあって妻を殺されてしまう。このハンスをクリストファー・ウォーケンが演じていて、マフィアのボスがウディ・ハレルソンという最高のキャスト。
ストーリーはマーティの脚本の世界と現実世界が同時進行するパターン。そしてラスト近くでハンスとビリーの正体がわかる。とにかく銃はひたすらぶっ放すし、血はあちこち飛び散るし、子供には見せられない作品。だけどボクは最初から最後まで大笑いしながら楽しむことができた。
『パルプ・フィクション』が好きな人なら、絶対に楽しめる作品。特に最高だったのがビリーを演じたサム・ロックウェル。実質的な主人公はビリーだと思う。この人ほどサイコパスが似合う俳優はいないだろう。
フィクションとの距離感を確かめたい人は、一度この映画にトライしてみてはいかが?
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