愛する存在の死を受容すること
我が家は妻と猫のミューナの3人家族。ボクにとってこの3人は、人生の最後を締めくくるチームだと言っていい。現状は3人での暮らしだけれど、やがてひとり減り、二人減りで、3人のうちの誰かがアンカーとしてこの世を旅立つことになる。
それでもこの世を去るトップバッターは決まっている。今は16歳5ヶ月で人間にすれば80歳を超えているミューナを見送るのが、ボクと妻の大切な使命。ミューナは治癒することのない慢性腎不全なので、いずれ別れの日が来るのを自覚している───つもり。
ただこれが難しい。先日の火曜日に6ヶ月ぶりに通院したミューナ。そのストレスで、通院から2日くらいは食欲が落ちた。いまはいつも通りで元気に過ごしてくれているけれど、少し彼の調子が落ちただけでオロオロしてしまう。一喜一憂しても意味がないと分かっていても、そうはいかないもの。
愛する存在の死を受容すること。それは口で言うほど簡単なことじゃない。そのことを思い知らせてもらえる、とても素晴らしい映画を観た。これはかなりオススメなので、もし観ていない人がいたら自分の愛する人を思い浮かべて観てほしい。
2022年 映画#179
『スーパーノヴァ』(原題:Supernova)という2020年のイギリス映画。写真のスタンリー・トゥッチとコリン・ファースが主演している。この二人の鬼気迫る演技を見るだけでも価値のある作品。ボクのように二人のファンなら、絶対に見逃してはいけない作品。
コリン・ファース演じるサムはピアニスト。スタンリー・トゥッチ演じるタスカーは作家。二人はゲイで、すでに20年以上も一緒に暮らしているパートナー。休暇を取った二人はキャンピングカーを借りて旅に出る。
二人の思い出の地を巡るだけでなく、サムの姉夫婦の家を訪れ、古くからの友人たちに会うことが目的。最初はそんな楽しい旅の雰囲気で始まるが、やがてあることに気が付く。タスカーの様子が普通じゃない。彼が病魔に冒されていることが明かされる。
彼の余命が短いことをサムだけでなく、サムの姉夫婦も友人たちも知っている。それゆえ二人にとって大切な旅であり、これからの本格的な介護に向けてサムの決意を高めるための旅でもあった。だけどタスカーの気持ちはちがった。
タスカーの病名は明かされていない。おそらく脳に関する病気で、やがて自分のことも他人のことも判別できなくなって、命を終えてしまうらしい。タスカーはそんな状態でサムと別れたくない。愛し合った自分の姿を最後の記憶に残したままでいて欲しい。
だからタスカーはこの旅の途中で自殺するつもりだった。でも事前に話せばサムに止められてしまう。それで遺書がわりの録音を残して服毒して死ぬつもりだった。だけどそれがサムにバレてしまう。ここからがこの映画の見どころ。
どんな姿になっても生きて欲しいと願うサム。そして最後の最後まで面倒を見ると熱く語る。
だけどタスカーはそれが耐えられない。美しい記憶のまま人生を終えたい。そしてサムを愛している自分のままで死にたいと懇願する。
この二人のやり取りでボクは号泣してしまった。愛する存在との別れはいつか来る。だけど実際にそれを目の当たりにすると、思っていたようにはいかない。そんな二人の葛藤が痛いほど伝わってくる作品だった。
特にラストが素晴らしい。サムはタスカーの気持ちを受け入れたように見える。一方、タスカーはサムの説得に応じたようにも見える。結果としてタスカーがどのような最後を迎えたのかわからない。サムのコンサートのシーンで終わる。これがとてもいい。
この映画が伝えたいことは、愛する存在の死を受容することについて。だから二人の出した答えは隠されている。映画を観ている人は、自分の想像でそれを体験してほしいという主旨だと思う。本当に素晴らしい作品だった。
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