公共事業の民営化に必要なもの
京都から神戸へ引っ越して15年目に入った。現段階で人生のほとんどを京都で過ごしたきたので、感覚としは京都人という自覚がある。でも遠方に出かけていて六甲山系が見えてきたとき、あぁ地元に戻ってきたなぁと本気で思うようになった。以前なら京都タワーがだったんだけれど。
そんな神戸に引っ越して驚いたのは水道料金。京都で最後に暮らしたのは京都市のお隣。同じ京都府なんだけれど、自治体が小規模なせいか水道料金が高かった。だけど神戸市に引っ越して水道代の請求を見たとき、間違いかと思うほど安かった。人口が多いだけに、世帯あたりの負担が少なく済むのだろう。
そんな水道料金に関して、とても面白い記事を読んだ。イギリスの水道は大変なことになっているらしい。
水道会社の社長たちが軒並み年収1億円以上に…イギリスが「水道の完全民営化」を後悔しているワケ
イギリスが抱えている水道問題の原因は、完全民営化による弊害。日本でも郵政事業が民営化されたり、大阪市では地下鉄の民営化が実施されている。国や自治体が民間企業に事業を売却することで、利用者により優良なサービスを提供するだけでなく、国や自治体の経費削減という効果もある。
日本の場合は概ねうまくいっていると感じる。ところが1989年に水道を完全民営化したイギリスでは、水道料金は天井知らずで値上がりするのに、水道サービスの質は驚くほど低下しているとのこと。
最も懸念されているのは水道管の劣化。水漏れが多発していて、ロンドンだけでも年間で6000件の水漏れが報告されているらしい。これは東京都と面積の違いを考慮しても40倍という頻度になる。ところが多額の経費のかかる水道管の更新に関して、水道事業を担っている企業はお金を出さない。そうなってしまったのは、政府が完全民営化によって責任を放棄してしまったから。
民営化によって水道に関する国の予算削減には成功した。だけど水道事業を買い取った企業は、株価を上げることと自社の利益にしか関心がない。それゆえ水道料金を上げることで売上を伸ばし、コストを下げるために水道管の管理を放置することで利益を出してきた。つまり経営者の視線は利用者ではなく、出資してくれる株主に向けられていたということ。そんな水道企業の経営者の年棒は、イギリス首相より多いらしい。
さすがに困ったイギリス政府は、2020年から規制強化に踏み込んだ。漏水率等の目標値を定め、達成できない企業に関して水道料金の値上げを認めないというもの。そこまでしないと、民間企業は国民のためにお金を使わないらしい。
公共事業を完全民営化するのに必要なものがある。それは企業間の健全な競争による危機意識。民間である限り利益を出すのは当然。だけど公的事業の場合は、利用者への配慮が欠かせない。それゆえ手を抜くと会社が倒産しますよ、という状況を作っておく必要がある。イギリスの水道事業にはこれが欠けていたのだろう。
日本の郵政民営化でトラブルが起きなかったのは、ネット社会による郵便利用の減少や、宅配企業の進出があったから。うかうかしていると、仕事がなくなってしまう。そんな危機感があるから、日本郵便としては本気にならざるを得なかったと思う。まぁ、少し前には年賀状の販売に関して、社員に理不尽な負担をかけるという問題もあったけれどね。
日本の場合は水道事業を自治体が担っている。人間が生きていくうえで、水は絶対に欠かせないインフラ。それだけにサービス低下の起きる可能性がある限り、水道事業を日本で民営化することはやめた方がいい。現状でも自治体による水道料金に格差があるのに、民営化されたら収拾がつかなくなるような気がするから。なんでも民営化すればいいというものじゃないと思うなぁ。
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