なぜこの作品を映画化しない?
原作のある物語が映画化されるとき、様々なことが検討されるんだと思う。具体的などのようなことが影響するかは知らない。想像できる要素として、まずはベストセラーになった作品であること。強いR指定を気にせず映画化できる内容であること。作品に見合った著名俳優をキャスティングできること。
それ以外にも色々あるだろう。究極的には公開後の配信やDVDも含めて、十分な利益を上げることができるかどうか。ただシリーズ化されている原作の一部が映画化されている場合、なぜその作品が選ばれたのか気になるところ。
あるシリーズ作品が映画化されたことで、ボクはその物語を知った。それで原作を読んでいる。ところが映画化作品より先に出版されているのに、映画化の対象になっていない作品がある。ボクはその物語を読了して、なぜこの作品を映画化しなかったのか不思議で仕方ない。それほど最高の作品だった。
2022年 読書#120
『宿敵』下巻 リー・チャイルド著という小説。上巻の感想については『悪役でいられないオジサンたち』という記事に書いているので参照を。
そのシリーズとはトム・クルーズ主演で映画化された『ジャック・リーチャー』シリーズ。現在では25作品がアメリカで出版されていて、邦訳は12冊というラインナップ。最初に映画化されたのは9作目の『アウトロー』という作品。
この『宿敵』は7作目なので、『アウトロー』の2つ前。もちろんベストセラーになっている。日本での邦訳は順番が適当で、この第7作が最新刊として出版されている。だから日本人は2013年に邦訳された『アウトロー』の8年後になってようやく2作前の作品が読めることになった。
ボクがこの作品を映画化すべきだと思ったのは、主人公のジャック・リーチャーという人物が完璧に描かれているから。『アウトロー』では元憲兵で実力はあるものの全米を放浪しているという人物。この『宿敵』でも基本は同じだけれど、その後の描き方がまったくちがう。
上巻の簡単な感想でも書いたように、ジャックはメイン州のある街でクインという男を見かける。元軍人で、悪事に手を染めていた。それでこっそりと陸軍にクインの調査を依頼したことで、麻薬捜査官と協力して潜入捜査をすることになる。クインの会っていた人物がザカリーという男で、このザカリーを麻薬取締局が追いかけていたから。
ジャックが呼ばれたのは、極秘に潜入した女性の捜査官と連絡が取れなくなったから。その女性を助け出すのが麻薬捜査官の目的で、ジャックの目的はクインを見つけて殺すこと。両者の思惑が合致することで、潜入捜査が始まる。
この物語の冒頭が本当にすごい。ザカリーの息子が誘拐犯に狙われたように偽装した。それを助けたジャックがザカリーの家へ侵入するという方法。計画を練った警察官を殺したという設定になっているので、ザカリーはジャックを雇うようになる。
詳細は省くけれどこのシリーズのファンなら、この作品にジャックの魅力が余すことなく書かれていることに気づくはず。観察力、計画力、行動力、そして咄嗟の鋭い判断等。そして何より重要なのは、なぜジャックはクインを殺そうとしているか。
実は10年前、ジャックが現役だったころに将来を託せるコールという女性の部下がいた。ジャックを凌ぐほど優秀な軍人。そのコールがクインの逮捕直前にちょっとしたミスで惨殺されてしまう。それはここでは書けないほど残酷な殺し方だった。
それでジャックは復讐するためにクインに接触した。そして銃弾を撃ち込んで殺したつもりだった。数発の銃弾を受けてクインは崖から海へ落ちた。ところが死んだと思っていたのに、街角でクインらしい男を見かけた。それで仕事を完遂させるために、クインを狙うというのがこの物語。
『宿敵』であるクインとの戦いは壮絶だった。『アウトロー』よりはるかに良くできたストーリーで、ジャックの過去も詳しく描かれている。物語としても完成度が遥かに高い。なのになぜ???
もしかしたら残酷すぎるからかなぁ。トム・クルーズを主人公にしてしまうと、彼のイメージに合わないかもしれない。つまりキャストが先に決まっていて、トムに合う作品として『アウトロー』が選ばれたのかも。
ということで本当のジャックに近づくために、原作に近いと言われているドラマを観ようと思う。そうすればボクがイメージしているジャックに会えるかもしれないから。
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