短編ホラーの恐怖はジワジワする
ボクは基本的に読むのも書くのも長編好み。上手いなぁと思う短編小説もあるけれど、読み解けずに終わることが多いから。いきなり終わりを突きつけられた感が強くて、戸惑ったままで取り残されてしまう。やはりいくつも伏線が貼られて、それらが回収されるカタルシスを経験できる長編が好み。
ただある短編集を読んで、もしかすると作品によっては短編のほうが読者に効果的な影響をもたらすのではと感じた。それはホラー小説。
2022年 読書#121
『スケルトン・クルー3 ミルクマン』スティーブン・キング著という小説。先日からスティーブン・キングの短編集を読んでいた。アメリカでは『スケルトン・クルー』というタイトルで1冊にして出版されている。日本では3冊の文庫に分冊されていて、ようやくその最終巻を読了した。掲載されていた小説をのタイトルを紹介しておこう。
『ミルクマン1(早朝配達)』1985年
『ミルクマン2(ランドリー・ゲーム)』1982年
『トッド夫人の近道』1984年
『浮き台』1982年
『ノーナ』1978年
『ビーチワールド』1984年
『オーエンくんへ』1985年
『生きのびるやつ』1982年
『おばあちゃん』1984年
『入り江』1981年
というラインナップ。この本のタイトルになってミルクマンは、まさに牛乳配達人が主人公。だけどこのミルクマンは、配る牛乳に毒物を入れて配達している。その背景も理由も分からないけれど、ひたすら気持ち悪い。
短編ホラーの怖さは、この不気味さにあるような気がする。長編のように悪人や幽霊等の動機がはっきりしていない。なのにひたすら怖い。そしてほとんどの作品がええ〜というところで終わってしまう。その後にどうなるのか不安になる。だからモヤモヤした恐怖がいつまでも心にこびりついてしまう。
例えば『浮き台』という作品。男女4人の大学生が、10月の湖に泳ぎに行く。浮き台まで行って帰ってくるだけのこと。なのに浮き台に4人が立ったと同時に正体不明の生き物が襲いかかってくる。どんな生き物かまったくわからない。だけどとにかく人間を食べてしまう。骨さえ残さずにバリバリと音を立てて食い尽くす。そしてラストでは、主人公の男性がそのまま浮き台に残されて終わった。
『生きのびるやつ』なんて絶対に映像化できない。主人公は優秀な外科医。だけど麻薬を密かに扱ったことで、医師免許を奪われてしまう。それで大量のヘロインを手にして船で逃げているとき、その船が嵐にあって主人公は無人島でひとりぼっちになる。トム・ハンクスの『キャスト・アウェイ』と同じ状況。
でもホラーなのでそこからが違う。とにかく食べるものがない。最初はカモメをつかまえて『生』で食べていた。ところが次のカモメを捕まえるときに失敗して骨折してしまう。医者だから知識はあるけれど、道具も薬品もない。あるのは大量のヘロインだけ。
それで壊死しそうな足を自分で切断する。ヘロインがあるので、どうにか麻酔がわりにできた。だけど食べるものがなくなって飢え死にしそう。そんなとき、切り取った自分の足がそこにあったら……。
そこからは想像にまかせよう。想像力の豊かな人なら、恐ろしくて叫び出すだろう。そしてこの作品も主人公の運命が見えないまま終わってしまう。短編ホラーにおける恐怖のツボを、著者は十分に把握しているんだと思う。長編が多い著者だけれど、実は短編も数多く執筆している。短編がホラー作品の恐怖を倍増するのを熟知しているのかも。とにかくこのシリーズの最後の作品は、まじで怖い内容ばかりだった。
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