命懸けで職務を全うする姿に感銘
年末年始はすでに1ヶ月前となるけれど、まもなく次の節目がやってくる。それは節分と立春。ボクはこの時期にも新年を迎えるという気持ちで過ごしている。それゆえ立春が過ぎたら、妻と一緒に神社へ参拝して新しいお守りをいただいてくる予定。
気分的には年末の空気感で過ごしているので、新しいことが動く予感がしていた。そのせいか今日の午後はちょっとバタバタ。短い記事になるけれど、印象深い小説を紹介しておこうと思う。
2023年 読書#13
『黄金列車』佐藤亜紀 著という小説。タイトルだけ見ていると、日本の列車の物語のように感じる。でもこの小説の舞台は第二次世界大戦末期のハンガリー王国。王国というだけあって、この当時は王様が存在していた。といっても1918年には王国は実質的に消滅。名前だけが1946まで残っていたそう。
ボクもこの小説を読むようになって知った事実。ハンガリー王国はドイツと同じく第一次世界大戦の敗戦国だった。それでその後の世界恐慌が起きたときは、ナチスドイツに歩み寄っている。実際にはファシズムの台頭に抵抗できなかったのだろう。
それゆえ第二次世界大戦が始まると、ユダヤ人の弾圧を開始。その結果として多くのユダヤ人を収容所に送り込んでいる。ここでこの『黄金列車』というタイトルの意味がわかる。この列車に積まれているのは、ユダヤ人から没収した財産。貴金属だったり金だったり、とにかく金目のものは没収されてハンガリー王国の国有財産として管理されていた。
ところがドイツが敗色濃厚となってきた。それでもドイツは1944年にはハンガリーのブタペストを統治下に置き、実質的に占領していた。そしてドイツが降伏する1945年になって、これらの財産を列車で運ぶように命令が出る。この小説の主人公たちは、国が略奪した資産を管理する公務員。
最初は国情がわからなかったので、理解するのに時間がかかった。そのうえ主人公のバログの回想が挿入されるので、時系列が混乱してしまう。でも慣れてくると、バログの苦悩がじわじわと伝わってきた。彼にはユダヤ人の親友がいたが、親友の妻は差別主義者に殺され、親友も悲惨な結果が待っていた。
個人的にはユダヤ人排斥に怒りを覚えているバログ。だけど公務員としての職務を全うしようとする。彼の上司としてアヴァルやミンゴヴィッツという人物が登場するが、二人は実在の人物で物語もその事実に沿っているそう。それだけにやりきれない気持ちになる。
『黄金列車』にお宝が積まれているのを知ると、当然ながら狙われる。ラスト近くでドイツの敗残兵たちが武力で脅して積荷を奪おうとする場面がある。そんな時にも彼らは自分たちの職務を遂行するために、全力で積荷を守り切る。このあたりのやり取りには、ビリビリとした緊張感が伝わってきた。
実話を調べてみると、彼らはその財産を守り切った。そして終戦後に連合軍であるアメリカに渡され、適切な処置が取られたらしい。といっても収容所で殺されている人がほとんどなので、返却するというわけにいかない。戦後に建国したイスラエルへの供与という形になったとのこと。
戦争には、この小説のように知られていない事実がいくつもあるんだと思う。ずっと心に残るであろう悲しい物語だった。
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