親バカ親父が大暴れ
物語に欠かせないのが登場人物の動機。人を殺すという許せない行為であっても、その動機に共感してしまうことで物語の世界に入ることができる。でも動機のない単なる殺戮も、ある意味ホラー映画としては面白いかもしれない。
もっとも厄介なのはその動機に共感できないというもの。大義名分のない主人公の行動は、せっかくの物語を台無しにしてしまう。アクション映画としてはかなり面白い作品を観た。ただし主人公の動機に共感できない。唯一共感できたのが、強烈な親バカだという部分だけ。そういう意味では失敗作なのかもしれないけれど、アクションが面白かったので最後まで観ることができた。
2023年 映画#36
『コードネーム: プリンス』(原題: The Prince)という2014年のアメリカ映画。親バカな父親を演じたのは、写真のジェイソン・パトリック。『スピード2』の印象しかなかった俳優さん。車の修理工場を営んでいるけれど、実は元殺し屋だったという設定。
ジェイソン・パトリックが演じるのはポールという修理工。娘のベスは実家から離れて大学に通っていた。ところが久しぶりに帰郷するはずのベスと連絡が取れない。不吉な予感を覚えたポールは、娘が暮らしているアパートに向かう。
そこで友人との写真と撮影した店をヒントにして、アンジェラというベスの友人を見つける。アンジェラによるとベスは麻薬にはまりこんでいて、薬欲しさにヤバい連中のところで暮らしているとのこと。それで多額の報酬と引き換えに、ベスに麻薬を融通した男を知っているアンジェラに案内をしてもらう。
ポールにとって困ったのは、ベスが軟禁状態となっているのがニューオリンズだということ。そこはポールが殺し屋をしていた街で、彼は裏社会の人間から「プリンス」を呼ばれて恐れられていた。足を洗ってこの街に戻らないつもりだったけれど、ベスを連れ帰るために古巣へやってきた。
ところがポールを必死になって探していた男がいる。オマーという裏社会を牛耳っているボスで、ポールに強烈な恨みを抱いていた。オマーの殺害を依頼されたポールは彼の車に爆弾を仕掛けた。ところがその車を使ったのは彼の妻と幼い娘だった。そりゃオマーは怒るだろう。そのオマーを演じているのがブルース・ウィリス。
ということで、ここからはポールの殺し屋としての能力が再起動する。そしてベスが軟禁されていた麻薬組織を壊滅させ、さらに襲いかかってきたオマーの組織も全滅にしたという結末。ポールが殺した人数を数えるのが難しい。派手な殺し方は、キアヌ・リーブスが出演している『ジョン・ウィック』とよく似ている。
だけどジョン・ウィックには共感できる動機がある。他界した愛する妻の忘れ形見である犬を殺された。それだけでも動機とし十分。さらに犬の仇を取ったことで組織から掟破りとされて、世界中の殺し屋から命を狙われる。そりゃ戦うしかないだろう。
だけどこの映画のポールの動機には共感できない。そもそも娘のベスは自分の意思でジャンキーになっている。そしてその組織の巣にいることを望んでやってきた。なのに娘を助け出したい親父が乗り込んで、その組織の連中を全員殺してしまう。ちょっと理不尽すぎない?
そしてオマーの怒りは理解できる。だってポールはオマーの妻と幼い娘を殺しているんだから。それで復讐にやってきたオマーを返り討ちにしてしまうのは、なんとなく心がモヤモヤする。まぁどちらも悪人なのは事実。だけど主人公にとって都合の良すぎる展開に感情移入することはできなかった。
つまり親バカの親父が娘のために大暴れした、というだけのアクション映画だった。ポールには『96時間』で娘を助けたリーアム・ニーソンの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい気持ちだった。
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