暴政から逃亡する恐怖と勇気
日本史だけでなく世界史においても、自国が侵略されることほど恐ろしい出来事はない。日本人は他国に比べたら温厚な方。それでもわかりやすい例をあげるとすれば、平家を都落ちさせた木曽義仲の軍勢は、京都で暮らす人々にかなりの乱暴狼藉を働いている。後白河法皇が義仲を追い出そうとしたのは、彼が兵士たちを統制できなかったことが大きく影響している。
でも海外に目を向けるともっと恐ろしい。大陸における侵略は、民族同士の戦いになることが多い。だから侵略された国の民衆は悲惨な目にあう。成人した男や老人は殺され、女性たちはレイプされた末に殺される。子供たちは奴隷として使うか売り飛ばす。それが普通のことだった。
それは最近でもあまり変わっていない。第二次世界大戦中、ウクライナへ侵攻したドイツ軍はいくつもの村を全滅させている。もちろん女性はレイプされてから殺されていた。昨年に起きたロシアによるウクライナ侵攻でも、同様のことがあったと報道されている。
そんな暴政から逃げるためには、とてつもない恐怖に立ち向かう勇気がいる。それゆえそうした逃亡劇が映画になることが多い。古い映画では『ホワイトナイツ/白夜』という作品がある。ソ連からアメリカに亡命したバレリーナーが航空機の事故でソ連に着陸してしまう。そして拘束された後、捕虜交換でソ連を脱出するまでの物語。
実話を元にした作品だと『アルゴ』という映画がある。イラン革命のとき、イラン大使館から脱出したアメリカ外交官が国外へ脱出するまでの物語。実話だけに真に迫る恐怖を感じされる物語だった。
そしてフィクションながら、実際にこんなことがあったのではという逃亡をテーマにした映画を観た。
2023年 映画#37
『エスケープ ナチスからの脱出』(原題:The Birdcatcher)という2019年のイギリス映画。物語の舞台は第二次世界大戦中だった1942年のノルウェー。ドイツナチスの支配下に落ちたノルウェーでは、やはりユダヤ人狩が行われていた。
理髪店の娘である14歳のエスターが主人公。ある日、いきなり兵士たちが父を連れ去った。おそらく銃殺されたであろう。このままでは自分たちも殺されると思い、母とエスターは住み慣れたトロンデンハイムを他のユダヤ人たちともに脱出する。
トラックに隠れていたが、検問にかかってしまう。エスターの母は必死で娘を隠した。そして「強く生きるのよ」と言って連行されていった。そのトラックに乗っていたユダヤ人は全員銃殺。かろうじて逃げたエスターは、ある農家の少年に助けられる。
ところがその農家はナチスの待機所となっていた。そこでエスターは髪を切って少年になりすました。なぜなら逃げたエスターをナチスが探していたから。少年の父親にはバレなかった。それどころかよく働くエスターを気に入った男性は、頼りない息子ではなくエスターを農場の後継者にしようとする。エスターが女性なのを知っているのは少年と彼の母親だけ。
だけどそんな農夫の夢でさえナチスは潰してしまう。農場を接収すると言われたことでトラブルとなり、兵士を含めて死人が出てしまう。そんな混乱に紛れて、エスターと少年はスウェーデンを目指して逃亡するという物語。だけど少年は途中で命を落としてしまう。
戦後になって父の理髪店を再建したエスター。もちろん女性の姿に戻っている。そしてラストでは、彼女を助けてくれた少年の母親と再会する。ただし世間の目は厳しい。ナチスに協力していた母親は、街を歩くだけで石を投げられる。戦時中の実態を描いた作品で、おそらく同じようなことがあったのだと思う。
こんなことが今でも起きているなんて、本当に悲しくなってしまう。そしてもし台湾有事が起きたら、すぐ近くで暴政から逃げようと台湾の人たちが難民となって日本へやってくるだろう。日本政府は、そしてぼくたち日本人はその時どうするのだろう? 理不尽な暴政に立ち向かう勇気を持つことができるのだろうか?
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