異質なホラーに本気でガクブル
久しぶりに本気で怖いと感じたホラー映画を観た。通常のホラー作品だと、幽霊やゾンビ、あるいは連続殺人鬼のようなキャラが主人公たちに襲いかかる。ところがそんな狂気に満ちたキャラが登場しないホラー作品。なのに身体の芯から恐怖を感じた。
以前からすごい映画だと噂を耳にしていたけれど、まさにその噂どおりの作品だった。
2023年 映画#77
『ミッドサマー』(原題: Midsommar)という2019年のアメリカ・スウェーデン合作映画。この作品は普通のホラー好きの人には、つまらない作品だと感じるだろうと思う。だけど人類学や民俗学、あるいは宗教やスピリチュアルに関心のある人なら、本気でガクブルになる作品だと思う。
主人公はアメリカの大学で心理学を専攻するダニーという女性。いきなり恐ろしいシーンで始まる。ダニーには双極障害を患った妹がいて、実家で両親を巻き込んで無理心中をしてしまう。彼女は家族の全てを失ってしまう。
そんなダニーにはクリスチャンという恋人がいた。クリスチャンはダニーと別れたいと思っていたが、家族を失った彼女に言い出せない。クリスチャンはそんなダニーと離れて夏休みを過ごすため、スウェーデン留学生のペレの故郷であるホルガ村に行く計画を立てていた。
そのことを知ったダニーはクリスチャンを詰問する。その結果、ダニーの心を癒す意味も含めてクリスチャンの友人たち3人に混じって、彼女もスウェーデンに行くことになった。ペレが熱心に誘ってくれたから。ちょうど夏至のお祭りがある。それに参加すれば少しは気持ちが晴れるだろうとの思いやりだった。
ホルガには同じくイギリスから友人に誘われてやってきたカップルもいた。ダニーを含めた6人が外部の人間で、それ以外は村の人しかいない。そこは都会から隔絶されたコミュニティで、白夜のせいか美しい自然と太陽の光に包まれていた。ダニーはここで夏至を過ごせることを喜んだ。
だけどそれは恐怖の始まりでしかなかった。
ホルガはキリスト今日を信じない人たちの村で、スウェーデンに古来から伝わる特殊な宗教を信仰しているカルト集団だった。先ほどの写真を観たら、その雰囲気が伝わってくると思う。これから映画を観る人がいるかもしれないから、具体的な恐怖については触れないでおこう。その方がこの映画を楽しめると思うから。
結論から言えば、この6人はこのカルト集団における人身御供だった。つまり生贄。さらに子孫が近親勾配とならないために、男性には種付け的な役割もあった。最後に生き残ったのはダニーだけ。なぜなら彼女はこんな状態だったから。
夏至のクイーンとして選ばれたことで生き残った。だけど恋人も含めて友人たちは殺されている。普通の神経でいられるわけがない。それを象徴するかのように、ラストシーンでダニーの笑顔がアップになる。この時の恐怖は半端じゃない。完全に狂気に堕ちた表情だった。
このダニーを演じたフローレンス・ピューは素晴らしい女優さん。『若草物語』の最新版では主人公の妹のエイミーを演じていて、アカデミー助演女優書にノミネートされている。さすがイギリスの俳優だよね。
この映画が怖いのは、村民の殺人に対する罪悪感が一切ないということ。それこそが盲信的な宗教がもたらす恐怖の最たるものだろう。誰もが輝く太陽の元で、笑顔で来訪者を殺してしまう。この得体の知れない恐怖を体験したい人は、是非とも本編をどうぞ。かなりエグいから覚悟した方がいいよ。
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