黒田官兵衛を怒らせると怖い
日本や中国を問わず、武将が活躍する物語で思わずニヤリとさせてくれる存在がいる。それは軍師と呼ばれる人たち。
『三国志』で有名なのは劉備に請われて軍師となった諸葛孔明。孔明は劉備亡き後の蜀の国を引き継いでいる。もちろん日本でも物語として軍師の活躍は欠かせない。羽柴秀吉が織田信長から絶対的な信頼を得ていった背景には、秀吉自身の能力にプラスして忘れてはいけない人物がいる。それは竹中半兵衛という軍師。
秀吉が織田家の重臣となっていく過程において、竹中半兵衛の存在は無視できないだろう。そして半兵衛亡き後に秀吉を天下人に押し上げた軍師がいる。それは黒田官兵衛という人物。まだ信長が存命の頃、その黒田官兵衛を怒らせた武将がいる。その代償は決して軽くはなかった。
2023年 読書＃63
『黒牢城』米澤穂信 著という小説。戦国時代の物語で、見た目は歴史小説。だけど物語のほとんどを占めているのがミステリ小説としての展開。そう思いきや、ラストにとんでもない結末が待ち構えている。史実を扱っているだけに、物語構成の巧みさに感動させられた。
この物語の主人公で、かつ黒田官兵衛を怒らせたのは荒木村重という武将。戦国時代に詳しい人なら、この二人の名前を見るだけで出来事が想像できるはず。織田家に仕えていた村重は、毛利ならびに石山本願寺と手を組んで謀反を起こした。そして大阪の伊丹にある有岡城で籠城することになった。
そんな村重の謀反を撤回させようとした信長は、羽柴秀吉の配下だった黒田官兵衛を説得に向かわせる。ところが村重はその申し入れを拒んだ。普通は使者の官兵衛を殺すか、そのまま城を去らせるのどちらか。でも村重は官兵衛を土牢に閉じ込めてしまった。これはかなり異例なこと。
その理由についての真相は別にして、小説においては説得力のある内容だった。そしてそれゆえに官兵衛は怒り狂う。殺されることは覚悟していた。なのに城内で生かされていると、村重に同調したと信長に思われてしまう。彼は松寿丸という嫡男を人質に出していた。
信長は当然ながら怒った。そして秀吉に命じて人質の松寿丸を殺すように命じる。秀吉は泣きながらも、竹中半兵衛が預かっている松寿丸を殺すように命じた。
息子を殺された官兵衛はあることを計画する。有岡城に籠城している兵士たちは、今回の謀反に不安を覚えている。場内にいる兵士は本願寺の信者、そしてキリスト教の信者がいる。つまり一枚岩ではない。
そんな状況を見抜いた官兵衛が仕掛けた。といっても牢にいるわけだから、ひたすら受け身で待つしかない。だけど彼の予測通り様々な事件が起きる。困りきった村重は、知恵者である官兵衛に相談する。そしてそれらの事件が官兵衛の知恵によって見事に解決していく。ここまでは探偵小説の雰囲気だった。
だけどそれこそが官兵衛の狙いだった。歴史に詳しい人は知っているように、荒木村重は有岡城に家臣を残して息子がいる尼崎城へ脱走する。家臣にすれば見捨てられらような気分だろう。村重の目的は毛利に約束を守らせるための行動だった。ただこの時代における武将の行動にしては不可解であるのは事実。
その理由をこの小説ではフィクションとして見事に仕立て上げている。その仕掛けが黒田官兵衛による復讐だったというストーリー。どのような仕掛けだったかについては、あえて述べないでおこう。興味のある人は是非とも読んでほしい。
だけど結末は史実が語っている。荒木村重自身は逃げ続けて天寿をまっとうしている。だけど家臣はバラバラ、家臣たちの家族は信長によって斬殺されている。村重の若い側室も京都で首を斬られた。
まさに官兵衛の復讐が成就したという物語。でも１年半後に牢から助け出された官兵衛に驚きが待っていた。秀吉に松寿丸を殺すように命じられた竹中半兵衛は、殺したと嘘をついて松寿丸を生かしていた。その松寿丸は未来の黒田長政であるというのが史実。いやぁ、最高に面白い歴史小説であり、痛快なミステリ小説だった。
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