YDKな足利尊氏が面白い
朝のうちは雲が多かったけれど、午後からは夏を感じさせる晴天となった神戸。気温も33度まで上がり、そこそこ暑い1日だった。おかげで台風の影響でしばらく干せなかった布団を干すことができた。
今日から子供たちの学校も始まっているので、ようやくいつもの日常が戻ってきた。神戸大学も学生が帰ってくるので、我が町の六甲も若い人たちで賑わうだろう。学生の街に住んでいると、気分だけでも若返っていい。身体はついてこないけれどねwww
さて、久しぶりに読み応えのある時代小説を読んだ。単行本だけれど2段書きで550ページもあったので読了するのに時間がかかってしまった。
2024年 読書#75
『極楽征夷大将軍』垣根涼介 著という小説。この「極楽」と称されている征夷大将軍は室町幕府の初代将軍である足利尊氏のこと。
ボクは日本史好きなのでどの時代も興味を持っている。なかでもオタク的な強い関心を持っている時代が3つある。
戦国時代、幕末、そして南北朝時代の3つ。それゆえこの小説の舞台の出来事は一般の人よりも熟知している。そんなコアな南北朝時代オタクのボクでさえ、この小説の構成には感銘を受けた。
有名な『太平記』という物語なら、この当時のキャラたちが全員主人公のような立場で登場してくる。この足利尊氏を始めとして、楠木正成、新田義貞、そして後醍醐天皇という人たち。
もちろんこの小説にもそれらの人たちは大きな比重を占めて登場する。でもこの小説は足利尊氏に焦点が当てられているので、尊氏の少年時代から室町幕府が安定するまでの出来事を中心に語られている。ただし、尊氏の視点では物語が進行しない。ここがこの小説の面白いところ。
小説の全編を通じて、尊氏の弟である足利直義、そして執事である高師直の2人の視点だけで物語が進行する。これら2人から見た尊氏蔵を描いたことで、この小説は大成功している。南北朝時代の歴史に詳しい人なら、すぐにその理由がわかるだろう。
後醍醐天皇の親政から武家の政治を取り戻し、室町幕府を築いたのはこの2人がいたから。どちらが欠けていても尊氏という将軍は誕生しなかっただろう。室町幕府の政治的な謀略や実務面において、尊氏という人物はほぼ傍観していただけ。その事実をとらえて『極楽』というタイトルになったのだろう。言い得て妙だと思う。
歴史ファンとして面白いのは、この直義と師直はやがて殺し合うことになる。だからこそこの2人を物語の語り手にしたことに意味がある。小説の後半になると、やがて2人の心が離れていくのがわかる。さらに尊氏に対する2人の態度も変化してくる。
史実として師直は直義に殺され、直義も兄の尊氏に戦で負けたことで命を落とした。つまりこの幕府の両輪がいなくなったことで、尊氏が急に覚醒するのが面白かった。本当はすごい武将なのに、実務派の2人がいたから能力を隠していただけ。
少し前の塾のCMでYDKという言葉が使われていた。『やればできる子』でYDKとなる。尊氏はまさにこのYDKだったということ。そして結果として、本当の意味で時代の波を読んでいたのは弟の直義でも執事の師直でもなく、『極楽』と呼ばれて尊氏だったというオチ。いやぁ、本当に面白い物語だった。
ブログの更新はFacebookページとX、並びにThreadsで告知しています。フォローしていただけるとうれしいです。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。
コメント (0件)
現在、この記事へのトラックバックは受け付けていません。
コメントする