真実を知っているのは妻だけ
朝晩は過ごしやすくなったものの、昼間はまだまだ真夏の気温。今日の神戸もすでに33度を超えているので、猛暑日にならないとしても熱中症の注意が必要な気温だった。日本海には秋雨前線が現れてきたので、少しでも早く南下して秋の空気を持ってきて欲しい。
さて、なんとも複雑な気持ちになる映画を観た。史実に基づいた作品で、映画としての質も高い。でも『真実』の判断を観客に委ねるという構成なので、見る人によって感想が異なる作品だと思う。
2024年 映画#159
『最後の決闘裁判』(原題:The Last Duel)という2021年のイギリス・アメリカ合作映画。1386年にパリで起きた出来事に基づいた歴史映画。全体の概略をまず書いておこう。
カルージュとル・グリという騎士は友人だった。けれども運命の歯車が狂い、カルージュが妻のマルグリットから持参金として受け取るはずだった領地がル・グリの所有となってしまい、カルージュが父の死を受けて長官となるはずだったのに、その座もル・グリが受け継ぐことになった。
そのことで二人の関係は悪化。そのうえカルージュの留守中に妻のマルグリットがル・グリにレイプされるという事件が起きた。怒り狂ったカルージュはフランス王に申し入れて決闘裁判を起こす。
両者の主張が平行線となった場合、真実は『神』が判断するというのが当時の思想。つまり二人が決闘をした場合、正しい方が生き残ることになる。ということで二人は王や貴族、そして民衆の立ち合いのもとで決闘することになった。
カルージュをマット・デイモン、ル・グリをアダム・ドライバー、そして二人の関係をこじらす元凶となったピエール2世をベン・アフレックが演じている。脚本は親友であるマット・デイモンとベン・アフレックが書いた。秀逸だったのはマルグリットを演じたジョディ・カマーという女優さん。さすがイギリスの俳優さんだわ!
この映画は黒澤明監督の『羅城門』の手法を使っている、カルージュ、ル・グリ、そしてマルグリットの視点で同じ出来事が別々に描かれている。人間というのは主観的な生き物。それゆえ誰の主観を信じるかで映画の感想が変わってくる。巧妙に脚本が書かれているので、真実はうまくぼやかされている。
興味深いのはこの当時の考えとして、セックスをした女性は頂点に達しないと妊娠しないというもの。マルグリットは5年の結婚生活で全く妊娠しなかった。ところがレイプ事件の後にすぐ妊娠している。マルグリットがル・グリのことを憎からず思っていたのは事実。
だけどレイプシーンでは、必死で抵抗しているように見えた。でもどこかで歓びを感じているようにも見える。そしてレイプの事実が分かった後、夫からセックスを強要されている。それゆえ本当の父親が誰なのかわからない。けれどもマルグリットは、夫が決闘で敗れた場合、レイプを偽証したとして自分も殺されることを覚悟していた。
そうなるとレイプは事実だった? でも決闘で自分が殺されると知らなかった、と夫をなじっているシーンもあった。ということはレイプされたと証言したことで引っ込みがつかなくなった可能性もある。マルグリットの視点の場面でも、そのあたりは真実が見えないようになっている。
結果として決闘はカルージュが勝ち、ル・グリは殺されレイプ犯として晒し者になった。ところが数年後にカルージュも戦争で死んでいる。結局は裕福な遺産を手にしたマルグリットが、子供を育てながらその後は30年も平穏に暮らしたとのこと。つまり真の勝利者は妻だったという結末。
さて、真実はどうだったのだろうねwww
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