揺れ続ける大義名分
今日は冬らしい寒さの神戸。でも六甲に神戸大学の学生たちが戻ってきたので、街は日常の活気を取り戻しつつある。駅近くを歩いていても、お正月の雰囲気はすっかり消えていた。
そんな日常の街の様子とは正反対に、ボクの心は引越しのことで完全に非日常化している。引越し先が決まるまでこの状態は続くだろうし、決まったら決まったで、引越しの段取りでさらに非日常化してくるだろう。今年はきっとこんな状態がしばらく続くことになるはず。まぁ、このバタバタを楽しむしかないね(笑)
さて、年が明けて授賞式シーズンがやってきた。先日のゴールデングローブ賞では日本の真田広之さんの快挙で沸いた。これから音楽ではグラミー賞もあるし、映画のアカデミー賞も控えている。そのアカデミー賞で、昨年の作品賞を受賞した作品をようやく観た。
2024年 映画#2
『オッペンハイマー』(原題: Oppenheimer)という2023年のアメリカ映画。説明するまでもなく、「原爆の父」と呼ばれた理論物理学者であるオッペンハイマーの人生を描いた伝記映画。
オッペンハイマーを演じたキリアン・マーフィーは完璧なハマり役だし、彼の妻を演じたボクの大好きなエミリー・ブラントもさすがの存在感だった。新しい作品なのでネタバレはしない。実際の人物像と合致するのかどうかわからないけれど、ボクはあくまでも『映画』としてこの作品を楽しんだ。
日本人としては被爆国であるだけに、ドキュメント的な感覚で観るのは辛い。心理的に少し距離を置くことで、この映画の素晴らしさを客観的に味わうことができると思う。決して核兵器を開発した人間の恐ろしさを非難する作品ではないと思う。
なぜなら量子力学が認知された段階で、核兵器の必然性が確定していたから。自分の国が作らなければ、敵対する国が作ってしまう。それゆえこの当時のアメリカではヒトラー率いるナチスに核兵器を持たさないため、科学者たちは必死になって原爆の開発に取り組んだ。それが大義名分。
でもその大義がこの物語を通じて揺れ続けている。計算段階で核兵器によって地球全体の空気が燃焼してしまうという結果が出た。結果的には計算ミスだったけれど、科学者たちは自分たちのやろうとしていることに慄然としていた。
さらに原爆が完成したとたん、オッペンハイマーたち開発者の手を完全に離れて政治の世界に持ち去られてしまう。結果として日本に投下されたことで、世界で最悪の人体実験となってしまった。
これはすでに認知されていることで、当時のアメリカ政府は原爆を使わなくても戦争を終わらせることがわかっていた。けれども実際に原爆の破壊力を確認したい。それゆえ広島と長崎という比較的空襲の被害を受けていない地域を選び、違うタイプの爆弾を投下している。
そのことを知ったオッペンハイマーの大義名分が激しく揺れ、強烈な罪悪感を覚えているシーンもあった。その罪悪感を象徴するシーンとして、オッペンハイマーがアインシュタインにつぶやいたセリフが効果的に使われている。
でも映画はあくまでも娯楽作品。一人の人物の苦悩が描かれたという視点で見れば、アカデミー賞が納得できる作品だと思う。
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