ホームレスではなくハウスレス
数日前に強烈な寒波を経験したせいか、最低気温が氷点下でなければ暖かいような気がしてしまう。客観的に見れば今日の神戸は冬らしい気温だったけれど、そこそこ天気もよくて連休の中日としては穏やかな1日だった。
それでもやっぱり外は寒い。少なくとも暖かく過ごせる部屋があるのはありがたい。今は引っ越しを検討して物件情報ばかりを見ているから、なおさらそう考えてしまう。ところがアメリカでは、住む家を失った人が大勢いる。そうした人たちの生活は2つに分かれる。
路上生活者としてホームレスとなること。もう一つは自動車を改造したり古いキャンピングカーを手に入れて車上生活をする人。後者は「ノマド」と呼ばれていて、全米各地を移動して暮らしている。
ノマドたちはホームレスではなく、自らをハウスレスと呼んでいる。そんなノマドたちの生活を克明に描いたノンフィクションを読んだ。
2025年 読書#2
『ノマド───漂流する高齢労働者たち』ジェシカ・ブルーダー著という書籍。2021年に公開された映画で『ノマドランド』という作品がある。フランシス・マクドーマンドが主演してアカデミー賞を独占した映画。
その映画の原作となったのがこのノンフィクション。ボクは映画を観て興味を持ったので、この書籍を読んでみた。映画は面白かった。ただどこかフィクション的な印象が強くて、車上生活をしている人たちの実態を正確に理解していなかったと思う。
この書籍を読んで、現代のアメリカが抱えている強烈な経済格差を痛感した。さらにノマド生活の苦しさ、辛さ、そしてそこにある自由とパワーも感じることができた。ノマド生活をする人たちが、自分たちホームレスではないと語る矜持が理解できる内容だった。
この本で紹介されている人たちの多くが2008年のリーマンショックによって自宅を失っている。不況による解雇で職を失い家賃が払えなくなった人が多い。特に高齢者にとって再就職はかなり厳しい。期間労働のアルバイトで生きていくためには、家賃を払って定住することが困難。そういう人がアメリカには数え切れないほどいるらしい。
ノマド生活のいい面を知ることもできるけれど、全体としては辛さや苦しさに関する比重が高い。クリスマスシーズンになるとAmazonは大量のノマドを採用している。倉庫で商品発送等の仕事をしてもらうため。でもその仕事は高齢者にとってまるで地獄のような過酷な労働。
キャンプ場の管理のような仕事も、それまで会社勤めをしていた人には耐え難い内容。でもそうするしかない現状を見て、同世代のボクはとても人ごとだとは思えなかった。日本でも経済格差が問題になっていて、アメリカの出来事は対岸の火事ではない。
さらにボクを打ちのめしたのは、ノマドはほとんどが『白人』だということ。著者はこの部分にも目を向けている。なぜなら黒人等の有色人種がノマド生活をするのは無理だから。車上生活をしている黒人がいたら警察に通報されるだろう。そして理由をつけて射殺されても不思議じゃない。
つまり貧困を抱えた黒人にはノマド生活さえ許されないということ。ハウスレスではなくホームレスになるしかない。映画よりもはるかに残酷なアメリカの事態が描かれたノンフィクション作品だった。
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