『べらぼう』の政情がわかる小説
相変わらず季節外れの暖かい日が続く神戸。今日も買い物に出かけたけれど、帰りの上り坂は汗ばむほどの気温だった。まだ明日までは暖かいらしい。でもこのまま春が来るわけじゃなさそうなので、まだまだ寒波に備える気持ちは残しておかないとね。
さて、今年の大河ドラマは江戸時代のエンタメ世界を牽引した蔦屋重三郎が主人公。すでに3回放送されていて、この物語の魅力にすっかりハマっている。ただこの18世紀半ばの情勢にあまり詳しくない。戦国時代や幕末のような戦乱に明け暮れる時代ではないのでボクの関心が薄かったから。
この時代を象徴するのは田沼意次。彼が登場する小説を過去に読んだことがあって、賄賂好きな悪漢という世評は後の時代に捏造されたものだとは知っていた。だとしてもこのドラマの政治背景がよくわかっていない。
そんなことを考えているとき、ある小説に出会った。著者は他のシリーズでよく知っているし、タイトルから忍者が活躍する物語だと思った。きっと戦国時代が舞台だろう、と勝手に思い込んで読み始めた。ところがなんと、それが『べらぼう』の時代と完全に重なっている物語だった。
2025年 読書#7
『忍びの副業』上巻 畠中恵 著という小説。読み始めて『田沼時代』の物語だと知ってビックリ。それもこの小説のテーマとなっているのは将軍の継承争いだった。つまりボクが『べらぼう』で知りたかった政情が詳しく書かれている作品だった。
物語の主人公は滝川弥九郎という若い甲賀の忍者。といってもこの時代に戦はないので、戦国時代のような忍者本来の仕事はしていない。鉄砲百人組という甲賀、伊賀、そして根来という忍者集団の下級武士の組織に所属して、江戸城の警護的な仕事をしていた。
でも戦乱のない時代なので薄給であり、傘張りをしなければ生きていけない忍者たち。それでも城勤めをしている弥九郎、友人の十郎と蔵人は、甲賀でもトップクラスの忍術を極めていた。
この当時の将軍は10代将軍の徳川家治。家治は田沼意次を重用していた。後継は家治の一人息子である徳川家基。西の丸殿と呼ばれている家基は、家人を通じて甲賀衆に私的な警護を依頼することになった。なぜなら家基の暗殺計画が闇で進行していたから。
史実を述べると、家基は若くして死んでしまうので11代将軍になれなかった。11代将軍となったのは一橋治済の嫡男である豊千代で、のちの徳川家斉。『べらぼう』のドラマの初回でも、この豊千代が生まれたというシーンが登場していた。
つまり西の丸殿こと徳川家基は、御三卿という将軍継承権を持つ人物たちにとって邪魔な存在だった。この小説では、その家基を守るために弥九郎たちが活躍するという内容。ただ歴史的事実を知ってしまったので、これが失敗に終わることがわかる。そういう意味では悲劇的な結末なのかもしれない。
それでも著者は『しゃばけ』シリーズ等の作品で、当時の江戸世界を描いてきた作家なので物語の展開が本当に面白い。上巻ではこの当時の忍者の悲哀と家基に信頼されるまでの物語が中心。そして何度も暗殺を防ぐシーンが登場した。
このタイトルがユニークなのは、副業とされているのは本来の忍者の仕事のこと。忍者としての能力はあっても、戦乱がない時代なので無用の長物だった。それゆえ本当の忍者の仕事が副業になってしまう、というこの時代らしい皮肉を込めた素晴らしいタイトル。さて下巻がどうなるのか楽しみ。
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