一枚の絵に隠された謎に興奮
完全に真冬が戻ってきた神戸。窓ガラスはびっしりと結露しているし、朝の早い時間帯にはちょっとした吹雪になっていた。お昼前には晴天が戻ってきたものの、最高気温が10度に届かない寒さだった。
でもネットでニュースを見ていると、関東ではかなりの雪が降ったみたい。都心でもうっすらと積もっているところがあった。すでに彼岸の入りになっていて、明日は彼岸の中日。なのに雪なんて本当にどうかしているよなぁ。
それでも明日の春分の日をどうにか過ごせば、いよいよ本格的な春になるとのこと。とりあえず明日の外出にはまだダウンジャケットが必要になりそう。まぁ、冬の名残を楽しむしかないね。
さて、予備知識なしで読んでぶったまげた小説に出会った。物語の入り口は1枚の絵だったのに、そこから先の広がりに戸惑うほどの壮大な物語だった。
2025年 読書#30
『なれのはて』加藤シゲアキ 著という小説。著者はアイドルグループである「NEWS」のメンバーだけれど、作家としてすでに確固たる地位を築いている。他の作品も読んだことがあるけれど、アイドルであることを忘れてしまう素晴らしい作家。
文章は上手いし、一つ一つの言葉がイキイキしている。さらに資料を深く読み込まれているらしく、物語を支える知識の深さに驚かされる。この小説でも巻末に参考文献が掲載されていて、それらの資料を読み込むだけでも大変だったろうと思う。
新しい作品なのでネタバレはしない。というより是非とも大勢の人に読んで欲しいので、あえて物語の核心には触れないようにしたい。この小説は主人公たちが一枚の絵画の謎を追っていくことで、その背後にあった辛く、悲しく、そして美しい物語が導き出されていく構成になっている。
主人公は守谷というテレビ局で働く男性。報道番組のディレクターをしていたが、ある事件に関わったことでイベント事業部に左遷されてしまう。その部署で同僚となった吾妻という女性社員は、祖母から譲り受けた1枚の絵を大切にしていた。
「ISAMU INOMATA」というサインがあるだけで画家の正体は不明。吾妻はその1枚だけで展覧会を開くという企画を立てた。その絵を見せられた守谷は、不思議な魅力に取り憑かれてしまう。問題となるのはその絵の著作権。
展覧会を開くためには権利関係を明らかにしなければいけない。存命している画家ならもちろん、亡くなっていたもその遺族が著作権を引き継いているかもしれない。死亡時期によっては著作権がフリーとなっている可能性もあるので、二人はこの画家について調査を開始した。
やがて秋田県で石油化学製品の製造を行っている会社が明らかになる。大手の企業で、創業者は猪俣家だった。守谷たちは猪俣家について調べていくうちに、想像もしない世界へと入り込んでしまう。途中からこの物語は一気に剣呑なサスペンスの匂いを放ってくる。
タイトルの「なれのはて」とは石油のこと。実は日本でも油田が存在していた。秋田ではそこそこの産出量だったそう。生物の死骸が土の中で時間をかけてやがて石油となる。だから石油は「なれのはて」と呼ばれていた。ネタバレはここまでにしておこう。
本当によくできた物語で、時間を忘れてページを繰っていた。とにかくラストはハッピーエンドになるので、気持ちよく読み終えることができるよ。
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