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高羽そらさんインタビュー

貧困という名の劇薬

5月も中盤を過ぎ、気持ちのいい天気が続いている。神戸は北の山から南の海にかけて開放的なので、乾いた風を全身で感じているだけで幸せな気分になる。今日のような気候が1年中続いたら、ここを天国だと思ってしまうかもしれない。

 

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ボクと同じく今の気候を好んでいるのがサボテン。買い物途中で満開になっているサボテンの花に出会った。我が家のサボテンは花が咲くまで、まだ4年くらいはかかるだろう。でもそのときが来てこんな写真を撮影できたら、感動で泣いてしまうだろうな。

 

でも感動で泣けるなんて、幸せなことだよね。同じ涙でも、悲しみや辛さがもたらすものは堪え難い。いや、まだ涙が出るだけでも、ましなのかもしれない。

 

あまりに辛すぎて涙が枯れてしまったかのような、壮絶な貧困世界が描かれた小説を読んだ。

 

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『罪と罰』(上巻)ドストエフスキー著という本。

 

この歴史的な名作を、恥ずかしながらボクは未読だった。ロシア文学を毛嫌いしていたわけじゃない。トルストイはほぼ全作品を読んでいるくらいだから、むしろ好きだと言っていい。

 

だけどなんとなくトルストイと対極にあるような気がして、ずっとドストエフスキーを避けていた。なぜだろう? でも上巻を読み終えて、その理由がわかったような気がする。

 

まだ10代後半のボクにとって、トルストイが描いているようなロシアの貴族社会は、物語として客観的に受けとることができる。でもこの『罪と罰』で描かれている世界は、あまりにリアルで、あまりに苦しい。おそらく今のボクが読むことによって、初めて消化できる世界だろう。本との出会いは、適切なタイミングが用意されている。

 

主人公のラスコーリニコフという青年によって語られる、彼自身と周囲を取り巻く貧困の世界は想像を絶する。物語の舞台は19世紀の後半だから、20世紀になってロシア革命が起きるのは無理もなかろうと感じる。それほど民衆は貧困にあえぎ、絶望の海のなかでおぼれそうになっている。

 

ラスコーリニコフは学費が払えず大学を去る。実家は貧乏な母子家庭で、妹がひとりいる。学費を工面できないラスコーリニコフは、父の形見等を質に入れて、かろうじて生きていた。

 

頭脳明晰な彼は、大学時代に犯罪理論に関する論文を書いている。まず人間は凡人と非凡人に分かれている。選ばれた非凡人は、新たな世の中の成長のためなら、社会道徳を踏み外す権利を持つ、という激しい理論だった。つまり選ばられた非凡人である自分は、『犯罪を犯す権利』があると考えている。

 

彼が狙ったのは質屋を経営する老婆。莫大な資産を保持しているが、自分の死後はその資金をすべて寄付するつもりで、民衆を救おうともしない。そこでその老婆を殺し、彼女の資金を世の中のために使おうと決心する。

 

ところが本来は悪人ではない。熱病に浮かされて殺人を犯してしまうが、莫大な金銭を奪うことなく逃走してしまう。必死で証拠を隠滅しようとするが、じわじわと警察は自分に迫ってくる。

 

殺人を犯す前、事件の最中、そしてその後の苦悩。そんな主人公の狂おしい心模様が、刻々と物語を通じて語られる。読むことで自分の心に抱えている何かと共鳴して、恐ろしさで身体が震えてくる。とんでもない小説だ。

 

上巻のラストでは、まだ犯行はバレていない。だが追い詰める刑事との距離は縮まっている。さらに聖女のようなソーニャとも出会っている。おそらく下巻では彼女が大きな意味を持ってくることだろう。

 

貧困というのは人間にとって毒、あるいは劇薬のようなものだろう。散々苦しませたあげく、命まで奪ってしまう。だけど何か些細なことで、それが人生を変える良薬になるかもしれない。毒と薬は紙一重だから。おそらく下巻はそういう内容になっていると想像する。

 

上巻の文庫本だけで600ページ近くあり、ほどんと改行もなくびっしりと文字で埋まっている。上巻だけで、読了するのに3日かかってしまった。おそらく下巻も同じくらい長い作品だろう。

 

今日下巻を図書館で借りてきた。ところが困ったことに、期間延長できない本が山となって積まれている。読書用のアクセルを目一杯踏み込んで、全速力で切り抜けないと読みきれない状況。できるだけ早く下巻を読みたいけれど、他の本と調整しながらになるだろう。

 

貧困という名の劇薬が、どのように変化しているのか? 古典作品について何を今さら、と思っている人も多いだろうけれど、ボクにとっては初めての旅。だからその答えを、近いうちに見つけたいと思う。

 

decoration/dcr_emoji_238.gif『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。

コメント (2件)

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  1. ゆきたかこさん、コメントありがとうございます♪

    おぉ、同じ時期に『罪と罰』を読んでいるなんで奇遇ですね!
    何だか偶然だとは思えません(笑)

    わたしもまったく同じ感想です。善悪の概念では割り切れない人間の心の本質が、著者によって提示されています。
    読者はそれらに向き合うことを避けられませんから、魂は傷つことを恐れて防御反応に出るのでしょう。
    だからこの作品は、読むべき人と時間を選ぶのかもしれません。

    そういう意味では、わたしもゆきたかこさんも、その時期が『今』来ているのですね〜!

  2. おはようございます。
    ちょうど今、罪と罰を読んでいるところです。そろそろ終わり近くですね。

    私も読むのは初めてなんですが、人間の内面のどろっとした部分がむき出しに描写されていますよね。

    自分の見たくない、他の人の見たくない部分を突き付けられているような気がします。

    若い頃にこれを読んだら、落ち込み過ぎて、立ち直るのにかなりの時間がかかったかもしれません。

    それでも良かったかもしれませんが(笑)、いくらか客観的に読めるようになった今だから、じっくり読む機会に恵まれたのかなぁ・・とも思っています。


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高羽そら|たかはそら(作家、小説家)プロフィール

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高羽そら(たかはそら)
今後の目標:毎年1つの物語を完成させたいと思います。
生年月日:昭和37年5月10日
血液型:A型
出身地:京都市

【経歴】
1962年京都市生まれ。数年前に生活の拠点を神戸に移してから、体外離脱を経験するようになる。『夢で会える 体外離脱入門』(ハート出版)を2012年1月に出版。『ゼロの物語Ⅰ〜出会い〜』、『ゼロの物語Ⅱ〜7本の剣の守り手〜』、『ゼロの物語Ⅲ〜次元上昇〜』の3部作を、2013年7月〜12月にかけて、オフィスニグンニイバよりAmazonのKindleにて出版。現在も新たな物語を執筆中。

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