ヒトカケラの夢が生まれるとき
ツイートにも書いたけれど、今日の午後6時台に降るであろう雷雨を心待ちにしている。7月の大雨のあと、神戸ではまともな雨が降っていない。ちょっとした雷雨が一度だけあった程度。
野生の植物や動物のことを思うと、マジで雨が欲しい。それに陽が沈むころに降る雨は、打ち水効果があるのでぐっと気温が下がる。ここのところ神戸の気温は落ち着いていて、今日も32度に届くかどうかというところ。すっかり猛暑日とは縁が切れた。だけどずっと暑さが続いているので、雨を心待ちにしている。
暑い日々が続いているとき、思いがけない雷雨は未来への希望を感じさせてくれる。大げさに思うかもしれないけれど、そんな感覚を覚える。
人生は思うようにいかないことが多い。それはまるで酷暑が続く夏の暑さと似ている。行き先が見えなくて絶望しそうなとき、思いがけない雷雨のような感覚がやってくることがある。これだったら自分でもやっていけるかも、と感じる瞬間。
それは、ヒトカケラの夢が生まれるとき。
20歳を過ぎたばかりの青年が、そんな瞬間を経験する物語を読んだ。
『明るい夜に出かけて』佐藤多佳子 著という小説。この作品は2年前に出版され、その年度の山本周五郎賞を受賞している。
主人公の冨山は、中学生から高校生にかけて、深夜ラジオの『はがき職人』として有名だった。ラジオのコーナーにネタを送り、パーソナリティーに読んでもらえる達人を『はがき職人』という言うらしい。
だけど彼はメンヘラなところがあって、他人との物理的接触ができない。大学生になって彼女ができたのに、キスを求めた恋人を反射的に突き飛ばしてしまう。そのことがきっかけでラジオネームがバラされ、ツイートで大炎上する。
傷ついた冨山は、大学を休学して実家を出る。そして金沢八景でアパートを借り、コンビニの深夜勤務をするようになる。両親とは1年だけの休学の約束だった。そのコンビニで様々な出会いがあり、やがて冨山は自分を取り戻していく。
そして人生を左右するような3人の仲間と出会い、やがて自分の未来の夢を見つける。ヒトカケラの夢が生まれる瞬間だった。
新しい作品なのでネタバレはしないけれど、著者がボクと同じ年齢だとは思えない。どう考えても、富山と等身大の人が書いた作品にしか思えないから。それほど文章が『今』を反映していて、若さで光り輝いている。とてもボクには書けない文章だと思った。
でもその文章がいいんだよね。読み進めているうちに、その世界観に引き込まれていく。きっと現役の大学生が読んでも違和感がないと思う。
そして登場人物のキャラがいい。有名女子校に通う佐古田愛という高校生が最高。かなりぶっ飛んでいる。この人物が登場したとたん、物語のカラーが一気に彼女色に染まったように感じる。そしてその子に振りまわされている男子3人が面白すぎる。
ボクはこの物語の登場人物と同じ年齢のころ、コンビニでアルバイトをしていたので雰囲気がよくわかる。もちろん30年以上前のことだから、コンビニの仕事はかなりちがうけれどね。でもなんとも言えない懐かしさを感じた。
そしてほのぼのとした気持ちを味わいながら、感動で涙した。最近は涙腺が弱くて困る。映画を観ても、小説を読んでも、ポロポロ涙が出てくる。歳をとったせいで、涙腺のコントロールが効かずに暴走しているのかもwww
とにかくとても素敵な物語。20代を経験した30代以上の人たちのほうが、きっと心に何かが刺さると思う。もし刺さったら、抜かずにそのままにしておくべき。ボクたちが経験したのに、すっかり忘れていることだからね。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。
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