権力は人を狂わせ、命を奪う
現代の日本において、いまだに冤罪というものが存在する。少し前のニュースでも、女性の嘘によって婦女暴行犯にされてしまった男性の事件があった。
ボクが死刑に反対なのも、この冤罪が存在するから。寄ってたかって誰かをはめようと思えば、決して不可能じゃない。法律という後ろだてを悪用するんだから、本当にタチが悪い。
現在でさえこんな恐ろしいことがあるんだから、昔はもっとひどかっただろう。この映画を観て、権力の濫用は人を狂わせ殺してしまうと思った。
『チェンジリング』という2008年のアメリカ映画。実話を元に作られた作品。こんなことが本当にあったなんて、信じることが恐ろしかった。
1928年のロサンゼルスでのこと。シングルマザーのクリスティンは電話会社で働きながら、一人息子のウォルターに愛情を注いで育てていた。ところがある日、仕事から帰ってくると小学生の息子がいない。クリスティンは失踪届を出すとともに、必死になって息子を探す。
そのまま5ヶ月が経過したとき、息子が発見されたと警察から連絡があった。ところがその息子はまったくの別人。顔はもちろん、身長もちがう。だけど警察はその子がウォルターだとして母親に押し付ける。
当時のロサンゼルス市警は汚職等で評判を落としていた。そこでこの子供を無事に発見したことで、名誉を取り戻そうと必死だった。だから息子ではないというクリスティンの申し立てを無視する。小学校の教師や医師の意見書も提出したのに、警察は彼女を精神病院に放り込んでしまう。
これが事実なんて信じられない。彼女を助けようと牧師が動くが、警察はかたくなだった。恐ろしいことに、精神病院には多くの女性が同じような事情で送り込まれていた。警察に対して反抗したり批判的な行動をとると、医師に診断書を偽造させて病院へ閉じ込めていた。そして廃人にしてしまう。
ところが驚くことによって、戻ってきたクリスティンの息子が別人だとわかる。子供をさらって20人以上も殺した殺人犯が逮捕されたから。そのなかにウォルターがいた。牧師が警察と精神病院に抗議したことでどうにかクリスティンは解放される。
だけど彼女は黙っていない。牧師に紹介された弁護士と手を組んで裁判を起こす。そして担当した警部と本部長をクビにするまで戦った。だけど本当のウォルターは行方不明のまま。殺人者の手を逃れて脱走した形跡はあるけれど、生死は定かじゃない。クリスティンは生涯をかけて息子を探したらしい。
この映画の前半は、マジで胸くそ悪い。警察権力の横暴にイライラさせられる。後半になって真実が明かされ、裁判に勝利することでようやく溜飲が下がる。それでも子供は帰ってこない。もっと早く偽物だと受け入れていたら、息子は助かったかもしれない。
このクリスティンをアンジェリーナ・ジョリーが熱演していた。素晴らしい演技だった。そして牧師役のジョン・マルコビッチも最高。とても重いテーマの映画だけれど、権力と戦った女性のパワーに勇気づけられる。さすがクリント・イーストウッド監督だよね。
それにしても本当にひどい事件。日本だって戦前は密告によって無実の人が政治犯として命を落としている。権力を手にしてそれを死守しようとする人間の恐ろしさを、まざまざと感じる映画だった。
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