差別を超越した女性への虐待
ボクの『英国ラブ』は、音楽だけじゃなく映画にまで深く浸透している。登場人物が中世の貴族であれ、現代の魔法使であれ、イギリス映画だというだけでワクワクしてしまう。
特に18世紀から19世紀ころのイギリスを舞台にした作品が大好き。一番のお気に入りは『いつか晴れた日に』というエマ・トンプソンが主演した作品。何度観ても、ラストシーンで号泣する主人公の涙につられて泣いてしまう。
ただこの時代の女性の立場は非常に弱い。貴族に近い血筋であっても、誰の妻になるかで運命が決まる。現代のように自由に職業を選べるわけじゃなく、どれだけ高貴な家柄に嫁いで経済的な安定を得るかに人生がかかっている。だから社交界デビューをすると、必死になって男性にアピールする。それは生活がかかっているから。
今日観たイギリス映画も、まさにそんな女性の苦悩を描いた作品だった。
『ある公爵夫人の生涯』(原題:The Duchess)という2008年のイギリス映画。実在の人物であるデヴォンシャー公爵夫人だったジョージアナという女性の物語。実話に基づいて作られている。
1774 年、ジョージアナは17歳でデヴォンシャー公爵に嫁ぐことが決まった。グレイという青年に恋をしていたけれど、この時代の女性は親が決めた結婚に従うのは当然。そのうえ公爵家との婚姻なので、躊躇することなく笑顔で嫁いだ。
でも夫が求めるのは、自分に対する忠誠と世継ぎの男児を生むことだけ。それでもジョージアナは世継ぎを産もうと努力した。だけど生まれたのは二人の娘。夫は世継ぎ以外に関心がないので、妻にも娘にも冷たい。
そのうえ女中には手を出すし、結婚前に他人に産ませた娘を引き取ってジョージアナに育てるように強要する。そんなひどい仕打ちを受けても、彼女は3人の娘を愛した。だけどついに怒りが爆発する。もうこれは女性差別を超えて、虐待だと言っていいレベル。
親友になったエリザベスの困窮に同情して、一緒に暮らすようになった。ところが夫はエリザベスを妾にしてしまう。そのあとようやく男の子が生まれたけれど、夫の仕打ちに耐えきれないジョージアナは、恋い焦がれていたグレイと関係を持って彼の子どもをもうけてしまう。
とにかく強い女性だった。女性に参政権がない時代に政治活動もするし、派手にギャンブルを楽しんだりする破天荒なところもある。それでも女性にはきびしい時代だった。妾であるエリザベスと生涯にわたって同居することになり、グレイとの娘も取り上げられてしまった。
彼女にとって救いなのは、エリザベスとの友情が復活したことだと思う。自分の死後にエリゼベスが正式な公爵夫人となるよう遺言に残し、実際にその通りになっている。そしてグレイとのあいだにできた娘とも、ひんぱんに会うことができたらしい。その娘が成人したとき、生まれた娘に母親のジョージアナという名前をつけたそう。
ちなみにグレイは、イギリスの首相にまで出世している。当時ではかなりのスキャンダルだったにも関わらず、実力のある政治家だったんだね。
この難しい女性を、主演のキーラ・ナイトレイが完璧に演じていた。めちゃ可愛いだけでなく、内に秘めた強さが全身からにじみ出ていた。やっぱイギリスの俳優さんはいいなぁ。そして何より素晴らしいのは衣装と、ロケ地に選ばれたお屋敷や風景。これらを観ているだけでも価値のある作品だった。
あっ、そうそう。悪役の夫を演じた俳優さんは、なんとハリーポーッターのヴォルデモートだった。憎まれ役が多くて気の毒だけれど、うまい俳優さんだなぁ。
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