自分とは何かを問う秀作
数年前に亡くなったデヴィッド・ボウイとボクは、あることで共通点がある。ブログで書くようなことではないけれど、強いて言えば同郷者かな。
だから彼の音楽が大好きだし、とても親近感をもっている。それゆえ彼の息子である映画監督のダンカン・ジョーンズも注目している。
実に素晴らしい映画を撮る監督で、ボクの大好きな女優であるミシェル・モナハンが出演した『ミッション:8ミニッツ』という作品は本当にすごい。パラレルワールドが好きな人は、絶対に観たほうがいい。ラストシーンを思い出すでけで泣けてくる。
そんなダンカン・ジョーンズ監督の長編デビュー作を久しぶりに観た。
『月に囚われた男』(原題:Moon)という2009年のイギリス映画。SFファンタジー作品なんだけれど、とても大きなテーマを扱っている。
それは『自分』とは何か? というもの。
物語は普通のSFっぽく始まる。地球人類はエネルギーを使い尽くしたが、月の裏側に存在するエネルギーによって豊かな生活を維持していた。そのエルギーをたった一人で支えている男がいる。それが主人公のサム。
3年間は地球に帰れない。だけどそれも2週間後に迫っていた。もうすぐ愛する妻と、幼い娘に会える。そうして指折り数えて採掘作業に集中していたが、幻覚を観たことが原因で事故を起こす。
ようやく救出されて月の基地に戻ったとき、自分とそっくりの人間がそこにいた。つまり事故現場から自分を救ってくれたのはその男。ところが相手の男性も驚いている。だってまったく同じ顔であり、同じ記憶をもっていたから。
二人ともにアイデンティティーが崩壊しそうになる。当初は喧嘩ばかりしている二人だけれど、やがて協力して謎を探ろうとした。その結果わかったことに二人は慄然とする。
二人ともクローンだった。
サム本人は地球にいる。そのサムのDNAを使って大量にクローンを作成し、3年ごとに更新していたことがわかった。クローンの寿命が3年しか維持できないからだろう。このあたりのシーンはとてつもなく切ない。
二人にとって妻も娘もリアルな存在。なのに妻はすでに他界していて、幼い娘はハイティーンになっている。そのうえ本当のサムが彼女と暮らしている。地球に戻ることを切望していたのに、そこには自分の居場所がない。地球は故郷ではなく、家族も存在しない。それはただの『記憶」でしかなかった。
そこで二人はあることを決行する。その内容を知りたい人は、ぜひこの映画を観て欲しい。SF映画としては突っ込みどころはある。だけどダンカン・ジョーンズ監督が言いたいことは、『自我』とは何か、『自分』とは何かということ。だからこれでいいんだよね。
このサムを演じたサム・ロックウェルがすごい。ほとんど一人で少しちがう二人のクローンを演じ切っている。二人のクローンにはほぼ3年の差があるからね。初めてこの映画を観たときにも思ったけれど、ジョーンズ監督は天才だと改めて感じた。
『自分』を証明するのは記憶でしかない。それはボクたちも同じ。もしボクが完全な記憶喪失になったら、高羽そらはこの世から消えてしまう。いくら家族が呼びかけても、他人だとしか思えない。この映画を観ると、そのことを痛感させられる。
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