人は複数の仮面を持っている
人間というのはいくつもの顔を持っている。それはおかしなことでも、異常なことでもない。まったくもって普通のことだと思う。
ボクに関していえば、妻と自宅にいるときが素の自分。でも一歩外に出れば、ちがった仮面をつけることになる。マンションの住人と会えばそれ用の仮面になり、図書館に行けば微妙にちがう自分がいるはず。
サラリーマンをしているころは、仕事中の仮面をかぶっていた。ほとんどの人がそうだろう。そんな人間の仮面がかもしだす特異な世界を描いた小説がある。
『マスカレード・ナイト』東野圭吾 著という本。この小説は『マスカレード』シリーズの最新作。ボクの大好きなシリーズで、ようやく読むことができた。
物語の舞台はホテル・コルシア東京という架空のホテル。第1作目は『マスカレード・ホテル』というタイトルで、初めて読んだときにこの世界のとりこになってしまった。
主人公は新田浩介という警視庁捜査一課の刑事。もうひとりの主人公はホテルの従業員である山岸尚美という女性。連続殺人事件の捜査で、4つ目の殺人がこのホテルで起きることが予測された。
それで新田がホテルマンに扮してフロントに潜入する。その世話役となったのが山岸という設定。ホテルという場所は利用者によって仮面をつけてやってくる。そんな人たちの人生模様と殺人事件が同時進行する、めちゃめちゃ面白い小説だった。このシリーズのマスカレードは、そんな人間がつける心の仮面のことを指している。
2作目の『マスカレード・イブ』は、新田と山岸が出会う前の物語。それでもこの二人は微妙に関係していて、事件解決に無意識で協力しあっていた。
そして最新作が『マスカレード・ナイト』というこの作品。『マスカレード・ホテル』から3年後の物語になっている。このホテルでは大晦日に仮装パーティが開催される。ある殺人事件の犯人がそのパーティーにやってくることが密告される。
ということで3年ぶりに新田がホテルマンに扮する。山岸尚美はフロント担当から出世していて、コンシェルジェとして活躍していた。今回は人間の心の仮面だけでなく、文字どおりの仮面パーティーが開かれる。そのパーティーの名前が『マスカラレード・ナイト』と呼ばれていた。
これから読む人のためにネタバレはやめておく。今回も複雑な人間模様が描かれていて、驚いたり感動したりウルウルしたりと忙しかった。中盤くらいまで犯人の目星はつけていたけれど、結果はまったく予想外の展開になった。う〜ん、さすが東野さんだなぁ。
この最新作の見どころは、コンシェルジェとしての山岸尚美の仕事ぶり。客が次から次に難題を吹っかけてくる。この職務の禁句は『無理です』という言葉。客の要望に対してノーが言えない。小説だとわかっていても、「それはないやろう」と山岸に代わって文句を言いたくなるようなワガママが出てくる。
ところがそれらのすべてを彼女は完璧にやってのける。それだけでもこの小説を読む価値がある。そのうえ、そのことが事件解決のきっかけにもなってくる。いきなりこの最新作を読んでも楽しめるけれど、できれば最初の『マスカーレード・ホテル』を読んだほうがいいと思う。
そうすれば、よりこの最新作を楽しめるはず。続編を期待したいけれど、なんとなく完結編っぽいのが残念だなぁ。ちなみに第1作目は映画化されていて、新田は木村拓哉さん、山岸は長澤まさみさんが演じている。映画は未見なので、いつか観なくては!
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